日本では昨年、最高気温の記録更新という猛暑だけでなく、西日本11府県で記録的な集中豪雨による甚大な被害が生じ、また台風被害による関西国際空港閉鎖という異常事態も経験した。
世界気象機関(WMO)は、日本を襲った記録的豪雨と猛暑などの異常気象が温暖化に伴う気候変動の影響でより極端になった可能性に言及し、気候変動の加速で強烈な異常気象の発生頻度がさらに増えると警告した。
今年もまた記録的豪雨をもたらした台風19号によって、全国で80人以上が犠牲になり、13都県の5千人以上が避難生活を余儀なくされた。まさに世界気象機関の予測の通りであり、「気候劇症化」や「気象凶暴化」が現実化しつつある。
今年9月に米国で地球温暖化対策を議論する国連「気候行動サミット」が開催された。各国首脳が参加して議論が行われ、77カ国が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする長期目標を表明し、来年本格始動するパリ協定の下での対策強化が確認された。安倍首相は不参加で、小泉進次郎環境相が出席したが演説の機会が与えられずに、日本の存在感は希薄であった。
気候行動サミットで将来を担う世代を代表してスウェーデンのグレタ・トゥンベリさん(16)が演説を行ない、各国首脳に「貴方たちを注視している。私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない」と強く警告し、世界中に大きな衝撃を与えた。
トゥンベリさんは温暖化阻止を求める若者たちによる世界的運動の火付け役であり、そのインスタグラムを730万人がフォローするとともに、ノーベル平和賞の候補にも推薦された。結果的には今年のノーベル平和賞はエチオピアのアビー・アハメド首相に授与された。約20年にわたる隣国エリトリアとの国境紛争を平和裏に終結させ、地域の安定への尽力が評価されたためだ。
実は昨年のノーベル経済学賞は、米国のW・ノードハウス教授(エール大学)に授与されている。気候変動や技術革新をマクロ経済分析に統合した功績が認められたものであるが、ノードハウス教授は環境経済学の第一人者で、温室効果ガスの排出に課税する「炭素税」の提唱者でもある。13年には「気候カジノ(The Climate Casino):経済学から見た地球温暖化問題の最適解」と題する本を出版している。
「われわれは気候のサイコロを投げている。その結果、深刻な事態を招く恐れがある。だが、気候カジノには足を踏み入れたばかりだ。今ならそこから出ることができる」とし、炭素税によって経済成長と温暖化防止の両立を図り、地球を救える可能性を明らかにしている。
観光産業は温暖化に伴う異常気象の影響を最も受けやすい産業分野であり、さまざまな機会を通して、温室効果ガスの排出削減のために尽力するとともに、社会的アピールを繰り返し行うべきだ。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)