【私の視点 観光羅針盤 216】戦後初の北方四島観光ツアー 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 北方四島の日ロ共同経済活動の試験事業として「日本人向け観光ツアー」が10月末~11月、初めて実施された。日本人が観光目的で公式に北方領土を訪れるのは戦後初。一行44人は10月29日に船で根室港を出発し、30日に国後島を訪れて観光を行い、次いで11月1~2日に択捉島の火山や温泉施設を訪れる予定であったが、天候悪化のために日程を1日繰り上げて2日に根室港に戻った。

 観光ツアーの試験実施は、今年6月の安倍晋三首相とプーチン大統領による首脳会談で合意され、当初は10月初旬に実施される予定であったが、出発直前にロシア側が延期を求めた。その結果、出発が約3週間ずれ込むとともに、悪天候で日程が短縮されることになり、北方四島における観光ツアー実施の難しさが如実に示された。

 安倍首相はすでに戦後最長の首相在位を誇るとともに「地球儀を俯瞰する外交」を旗印にして、歴代首相で最も数多くの国々を訪れている。特にプーチン大統領とは通算27回の首脳会談を行っており、今年初の施政方針演説で「(北方領土問題に)必ずや終止符を打つ」と明言していた。北方四島は日本固有の領土という歴史的事実が存するが、現実にはロシアが実効支配を続けており、領土問題の解決は容易ではない。

 日ロ共同経済活動は領土問題解決に向け、互いの信頼醸成のために日本側が提案し、両政府が5分野(観光ツアー、ごみの減容対策、海産物の増養殖、温室栽培、風力発電)について優先的検討を決めた。
今回の観光ツアー試験事業は、元島民らを対象にした既存の「ビサなし渡航」の枠組みを活用した特例措置で実施された。しかし本格実施に当たっては新たな渡航枠組みの創設が不可欠であるが、日ロ間の協議は難航している。

 北方領土問題に詳しい日本の専門家は「観光ツアーは領土問題の解決につながらないだけでなく、ロシアの実効支配を正当化しかねない」と指摘し、ロシアの専門家は「日本人観光ツアー客がビザなしで北方四島を訪れるのは、外国人がロシア領に入る法律に違反している」と警告している。

 いずれにしても、ロシアが長年にわたって実効支配し続けている北方四島で共同経済活動を行うためには、日ロ双方の法的立場を害さない「特別な制度」が不可欠になるが、その実現は容易ではない。 

 今回のツアー参加者によると、「手つかずの自然を見ることができて感動した」「観光の可能性を感じる島だと思った」という肯定的意見と、「入域手続きや団体行動を強いられ、息苦しかった。もう行きたくない」という否定的意見があった。いずれにしても、既存のビザなし渡航制度では諸々の制限・制約が厳しいために、本格的な観光ツアーの実施に当たっては新たな渡航制度が不可欠になるだろう。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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