【私の視点 観光羅針盤 217】ラグビーW杯の熱狂と功罪 地域ブランディング研究所代表取締役 吉田博詞


 ラグビーワールドカップ(W杯)2019が終了した。事前の盛り上がりが乏しかった中で、成功するのか心配もあったが、日本代表・ブレイブブロッサムズの大躍進のお蔭で日本国中が盛り上がった。日本対南アフリカ戦の瞬間最大視聴率49.1%は、今年放送された全番組ではトップとなり、多くの日本国民が熱狂し、酔いしれたイベントであった。

 今回のW杯の効果を客観的に整理してみたい。大会組織委員会によると総観客動員数170万4443人、訪日客は推定約40万人、経済効果は4370億円とされている。この数字を見るだけでも、当初期待された以上の効果が上がったことが理解できるだろう。

 さて、今回のW杯が残したもの、見えてきた課題はどういったところだろうか。数多くの欧米豪の方々が来訪し、日本各地に一定の誘客があったことは間違いなく大きな成果だろう。単なる観客動員数だけでなく、各国の方々と一定の交流効果があり、今後のつながりが残ったことも財産といえるだろう。

 逆に、多くの方々がやってくるこのチャンスをまたとない好機として捉えて、準備した割にそんなに大きな誘客につながらなかったという話が、いくつかの地域から聞こえてきたのも事実である。

 冷静・客観的に整理をしてみたいのだが、今回のラグビー目的での訪日客は約40万人。18年1年間の訪日観光客が3119万人。そのうち、欧米豪の観光客は400万人近くという数字になる。そこから考えると、今回このタイミングで来ていた方は、年間の欧米豪の方の数にして1割程度でしかない。

 確かに、イベントは非常に分かりやすい事象ではあるが、普段から来ている方々に愛されて、口コミが広がり、ファンが定着している地域か否かというのが大事である。それができている地域は、今回の恩恵を受けてよりファンが拡大していっただろうし、そうでないところには瞬間風速が吹くようなことはあり得ないと考えた方が賢明だろう。

 イベントに頼るのは一朝一夕の効果でしかなく、やはり普段から一つ一つの積み重ねをしていくことが何よりも先決といえる。イベントを否定するつもりはないが、既に来てくれている、来る可能性がある一人一人の観光客が何を求め、何を感じ、どうすればよりファンになってくれるかを徹底的に考えて対策をしていくことが何よりも大きな近道になることは間違いないだろう。

 オリンピック・パラリンピックまでは、あと8カ月ほどに迫っている。このタイミングで多くの方が来てくれるのは事実で275万人、4200億円の消費がなされるともいわれており、期待も一定数はあるだろう。
 ただ、オリンピックのピークを観光客が避ける現象として、クラウディングアウトが発生するという不安も出始めている。だからこそ、日常的に今来てくれている方々を一人でも多くファンにしていくことが求められるに違いない。

 (地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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