2020年7月24日に東京五輪が開会される。日本政府は東京オリパラを契機にして「2020年インバウンド4千万人」という数値目標を掲げている。前回、1964年の東京五輪は気候の良い10月10日に開会したが、今回は高温多湿の7月開会。国際オリンピック委員会(IOC)は米国の放送局から巨額の放映権料を受け取っており、放送局の都合で米国の四大スポーツが盛んな秋を避けて、真夏の五輪開催になった。
政府はオリパラを契機にしてインバウンドのさらなる飛躍を図っているが、この数年にわたって6~9月に記録的猛暑や集中豪雨、洪水などが頻発し、大きな被害が生じている。
世界気象機関(WMO)は日本を襲った記録的豪雨や猛暑などの異常気象が温暖化に伴う気候変動の影響でより極端になった可能性に言及し、気候変動の加速で強烈な異常気象の発生頻度がさらに増えると警告している。地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」は今年から運用が開始されるが、現実には各国の足並みがそろっておらず、気候劇症化への不安は解消されていない。
観光産業は「フラジャイル(脆い、虚弱)な産業」であり、異常気象だけでなく、地震、津波、戦争、テロ、流行病、政治的混乱、経済的不況などもろもろの変化の影響を受けやすい産業であり、不測の事態に対して的確に即応することが不可欠だ。
世界ではいま「自国第一主義」と「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の台頭による衆愚政治が拡大している。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領が引き起こした米中冷戦は世界経済に大きな影響を与えており、11月の米国大統領選挙の結果が注目される。習近平国家主席は「一帯一路」構想を推進して覇権大国の確立を目指しているが、香港の民主化運動の行方や1月の台湾総統選挙の結果への対応も注目されている。
欧州では、ドイツのメルケル首相の威信低下や英国のジョンソン首相が率いる保守党による「ブレグジット(EU離脱)」の本格化などに伴って、大きな変化が予想されている。中東ではイスラエル政治の不安定化や、産油国のサウジアラビアやイランの動向に注視が必要だ。「ブラジルのトランプ」と呼ばれるジャイル・ボルソナロ大統領のアマゾン森林火災放置は世界に衝撃を与えている。
韓国では文在寅大統領による反日政策によって日韓関係が最悪になっており、3月に実施される総選挙の結果が注目されている。北朝鮮も世界の批判を浴びながら、核ミサイル開発を推進しており、日本の安全保障を脅かし続けている。
安倍首相は憲政史上最長の首相在位を誇っているが、長期政権のおごりと弛緩(しかん)によって、日本が抱えるさまざまな国家的課題に的確かつ十全に対応できない危うい国家運営を繰り返している。もろもろの不安定要因を見極めながら、今年が日本観光にとって「飛躍の年」となるか、「停滞の年」となるか、冷徹に見極める必要がある。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)