これからの密を避けた新しい生活様式に対応していくとなると、数を回さずに利益確保していくためには、質を向上してプレミアム化を狙う必要が出てくる。コロナを機に、観光業界における課題だったオーバーツーリズムを避けた観光地づくりの在り方を徹底的にモデルチェンジできる機会がやってきたといえるだろう。
コロナで移動自粛の3カ月を振り返ると、多くの人から大事にしたいことや物事の本質が見えてきたとの声を聴くようになってきた。家族や大切な人とのつながり、健康や食生活の在り方、時間の使い方、居住・生活空間の快適性、ストレス発散・リフレッシュの仕方等の見直し、生活の質QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が大きく変わってきている。
これまで当たり前に感じてきた日常生活に、大きな無駄があったことに気づいてしまったのだろう。この3カ月間、強制的に過去に当たり前だったライフスタイルを制限され、一定の制約条件で生活せざるを得なかった中で、消費形態を大きく変えた消費者が出現したのだ。少々金額が高くても、安心安全、やすらぎを選んで消費する、応援したい人を選んで積極的に活動に参加するといった市場が急拡大したといえるだろう。
提供側を見ても然りだ。生き残るサービスが明確になってきた。お客さまが来ないから、補助金だけに頼ろうとするところもあれば、積極的に自ら顔を出してこだわりや背景、地域へのオモイのストーリー発信をして、今提供できるサービスを届けようと各種努力をしてきたところもたくさんある。
需要回復期を見据えて、安心安全を提供するために施設内やサービス内容を見直し、日常からの癒やしを楽しんでもらうために滞在価値の定義を明確にして、商品づくりに努力もしていた。これらは、感度が高まった消費者に必ず評価されて選ばれていくに違いない。
自粛期間に生まれた新需要と新供給のマッチングが一気に加速していくと考えている。特別なオモイでつながった関係値は今後もリピーター化され、いつまでも共に磨き、学び、支え、育てていくモデルになっていくだろう。
引き続き一定の制限があることを考えると、旅行回数は気軽さという側面では減少し、1回の滞在をゆっくりと充実したものにシフトしていく。その分単価アップも期待できる。特別なサービスに対価を払うプレミアム化にシフトできれば、地域経済は数を受け入れなくても回るモデルに転化していくことができる。
こうした考え方はコロナ以前でもたびたび提唱されていたが、モデルチェンジしていくには、ニワトリが先か、卵が先かの問題が生じ、じっくり時間をかけていくしかなかった。ただ、コロナは強制的に市場の需給双方を変化させた。
間もなく「Go Toトラベルキャンペーン」が始まる。単純に過去の消費者が戻ってくることを求めるのか、あと1カ月でプレミアム化を加速させられるのか、提供側の真価が問われている。新たな価値観をもった消費者は既に存在している。
(地域ブランディング研究所代表取締役)