【私の視点 観光羅針盤 249】新しい旅の哲学 地域ブランディング研究所代表取締役 吉田博詞


 「全国体験観光オンラインシンポジウム~withコロナ時代のプレミアム化・SDGs対応・ファン獲得策~」というシンポジウムを7月9日に弊社主催で開催したところ、全国各地から500人以上の方がエントリーしてくださり、盛大に開催することができた。

 このシンポジウムでは、コロナ禍における市場変化に適応した地域・体験のあり方に関してアレックス・カー氏はじめ、現場で何とかこの変化を乗り切ろうと努力を重ねておられるパネラーの方々に登壇いただいた。変化に適応していくための展望が見えてきたので、いくつかの要素をここでご紹介したい。

 基調講演のアレックス・カー氏は、ありのままの自然・文化への興味関心が世界的な大きなうねりとなり、欧米だけの独特なものではなく、日本そしてアジアでもそれらを求める層が急激に増えているという、市場変化の流れを教えてくれた。そしてこれからは「新しい旅の哲学」として、受け入れ側と旅行者が価値観を切り替えて動く必要性があるという指摘をもらった。

 受け入れ側は自然や文化がもろいことへの理解や量から質への転換、ゼロドルツーリズムから地元還元の必要性を理解して受け入れ態勢を構築していくこと。旅行者側は社会貢献性がある場所への旅や、自分自身が環境に負荷を与えていることへの自覚、自分の期待通りのことを提供してくれる場所を選ぶという意識変化の必要性について問題提起をしていただいた。コロナ禍に嘆くのではなく、変化においてこの哲学に基づいた地域のあり方をしっかりと考えていく必要があるのだろう。

 併せてパネルの部では、現場で活躍されている方々にお話しいただいたが、結局のところ、一人一人のお客さまが何を求めているかを考え、それに応え続けていくことが必要であり、いかに顧客との関係維持のアクションをできるかにかかっている。

 ファンはガイド等の人につくがゆえに顧客が何を喜んでくれて、何に満足してくれたかを徹底的に深掘りする必要があるという意見や、これから始まるGo Toトラベルを地域のホテルと体験事業者がつながりを持つ最大の機会と捉えて、地域連携を加速させていくべきという意見があがった。そして、安心・安全基準を徹底対応できることは、すべてにおける必要条件となっており、これらの概念をしっかりと日々のサービス提供に生かしていきたいところである。

 観光市場の回復にはまだまだ時間がかかりそうであり、マス観光となると、なおさらのことだろう。これまでゆったりとした流れで起こっていた需要・供給の価値観の変化も、半ば強制的に双方が適応しなくてはならない状況が生まれているのだろう。辛い状況下だが、何とかこのタイミングで各地域が未来を描いていってくれることを願いたい。シンポジウムの内容はAttractive JAPANラボの中でも記事化しているので、興味のある方はそちらも参照していただければ幸いである。

 (地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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