【私の視点 観光羅針盤 261】三社祭と地域アイデンティティ 地域ブランディング研究所代表取締役 吉田博詞


 10月17、18日、東京・浅草では三社祭が開催された。三社祭は、毎年5月の第3金、土、日曜日に開催され、700年以上の歴史を誇る浅草を代表する祭りである。100基ほどのみこしが浅草を練り歩き、200万人近くの観光客が訪れる一大イベントといっても過言ではない。下町の活気があふれる年に一度の祭りを浅草の氏子の方々、みこしの担ぎ手、見学者それぞれが楽しみにしており、三社祭が生きがいという浅草の方は少なくない。

 5月の開催はまだ緊急事態宣言の解除前でもあり、感染症のリスク理解およびその対策をすぐにして実施するにはどう考えても難しかった。その中で、主催の浅草神社奉賛会の方々は中止という判断はせずに、いったん10月に延期ということを決定した。社会情勢を見て、どうやれば実施できるかということで調整に入った結果、10月実施に至った。内容としては、御用車にみこしを乗せて、おはやしと2台の車で町内を巡回し、みこしを担ぐという行為での感染リスクを発生させないスタイルでの実施となった。

 三社祭は浅草の方々の誇りであり、三社祭のために生きているという方がいるくらいのものでもある。コロナという一つの影響で、祭りを中止にしてしまうという判断は浅草の方々にはどう考えてもなく、社会情勢を見ながらできる方法を徹底的に見直して調整されていた。その時大事な哲学が、祭り本来の目的に立ち返って考えるというプロセスである。そもそも祭りはみこしに御霊を入れ、神様にまちの様子をご覧いただく行為ということが本質であり、その本質を第一義に捉えてできる方法を模索されたことが非常に大きい。この条件を満たす中でできることをしっかりと考え、実施の方法を調整されたのがこのスタイルである。

 当日は、多くの方にネットでの視聴をお願いし、沿道には祭りに思いを寄せる氏子の方がそっと立ち寄り、年に一度の祭りを静かに楽しんでおられたことは印象深いものがあった。こうして、地域のアイデンティティが多くの方の知恵とオモイを結集して実現できたということは非常に意義があり、多くの方を勇気づけていた。

 新型コロナウイルスの影響はまだまだ不安が多い中でも、各種業界のガイドラインが策定されて、徐々に対策は明確になってきている。感染者を出してはいけないという主催者の立場からすると、各種調整が難しいことは事実だろう。

 いろいろ複雑な調整もあって、そこをまとめて物事を調整していくのは非常に難易度が高いことではある。しかし、簡単にあきらめるのではなく、本来の意義に立ち返って、そしてその意義に最大限近づけられる方法を考えて、調整していくことができた地域はより結束を高めていけることは間違いないだろう。

 今こそ、地域が大事にしてきた文化の本質的な価値を再認識して、その実現に各地域が叡智(えいち)を絞っていってくれると、地域に別の形での財産を残していけるに違いない。

 (地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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