地域経営強化においてDMOだけでなく、民間ベースで観光戦略の立案を行い、実行する組織DMCの役割も期待が高まってきている。DMOに比べて、利害関係者との調整・意思決定や推進力を非常に早いサイクルで展開できるメリットが、マーケティングをしていく上で機動力となって成果を生み始めている。
株式会社であるがために事業性を追求していく流れの中で、予算や成果に対してより能動的に動けるといったことや、地域の経営者が出資しあって展開していくことで経営目線での冷静な判断ができることも強みだろう。
全国で頑張るDMC組織の中で注目したいのが、株式会社DMC天童温泉である。2017年に天童温泉や山形に訪れる目的を作るということを最大の使命として、温泉旅館のオーナーたちが自ら立ち上がって作った組織である。温泉旅館としてはライバル同士である中でも、競争から共創へということをキーワードに設立し、短期間で新たな取り組みを積極的に行っていることは注目できる。
40代の代替わりをした若手世代が役員となって、地域の未来のために立ち上げている。小学校の通学班が同じで、小さいころからみんなで行動をしていたことや、天童温泉自体がもともと湯量が少なかった中で温泉の共同管理をしていく文化があったこと等を含めて、意思決定がしやすかったことも奏功して結果に結びついている。
第3セクターとしてではなく、地域の経営者やウェブや予約システムを構築する会社が出資しあって、成果創出のために必要な経営判断をできていることは注目だ。
着地型の企画も数多く、トライ&エラーで創出する中で一番ヒットしたのが「さくらんぼ狩りツアー」だという。早朝6時に集合し、一番おいしい時間帯に貸し切り状態で、果樹園の方が出来上がるストーリーも含めて伝えてくれる。これまでにない滞在として評価され、ゆっくりとお土産購入や発送ができるというメリットも含めて、地域全体の消費金額拡大・満足度向上に寄与している。
造成する商品において、その価値を「機能・感情・自己表現」のそれぞれの確度から目的設計して組み立てることで、より満足度アップにつなげられる流れが構築できている。参加者アンケート等もしっかりと行い、値上げしても満足度向上につながる改善の仕組みも構築されている。
併せて、マーケティングリサーチの中で周辺地域の動態も調査することで、銀山温泉との連携商品等、山形全体の誘客エンジンになっていることも興味深い。
昨今、域内での連携強化の必要性や、滞在時間をいかに上げて消費拡大をしていくかというテーマが叫ばれている中で、このモデルから学べる要素は多分にある。コロナ禍においてより次の地域展望が求められている中で、よりスピード感をもって経営目線で改善を進めていけるDMC的な機能が、全国でより加速していくことを期待したい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)