この夏、ユネスコより二つの世界遺産が登録認定された。その一つ「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、白神山地(青森・秋田)、屋久島(鹿児島)、知床(北海道)、小笠原諸島(東京)に次いで国内5カ所目の自然遺産登録となる。この登録で政府が準備していた自然遺産は全て完了となるので、国内最後の自然遺産となる可能性があるともされている。
当該地域は温暖・多湿な亜熱帯気候で、アマミノクロウサギやイリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナなど、それぞれの島にしか生息していない固有種や絶滅危惧種も多いエリアであり、島という外部からの影響を受けにくい特殊な環境で育まれた特異性が評価されている。
この世界自然遺産において、特に動物との共生は大きな課題に直面することが多い。先に2005年に登録された知床における現状の取り組みと課題を考えてみたい。現在、知床自然センターでは世界遺産化15周年を記念して、今津秀邦監督により作られた20分のドキュメンタリー映像「THE LIMIT」が上映されている。世界遺産化の中で、観光客を受け入れたいのか、制限するのか。熊との共存ができるかどうか、大きな瀬戸際である中での地域側の葛藤を描いた作品となっている。
ヒグマの密集度合いが世界でも有数とされている知床エリアでは、熊に出没する可能性が高いことも観光における魅力の一つである。その分、その危険を知らない、目の前の興味で写真、映像を撮ろうとする、餌付けを考えてしまう、事前の認識不足の観光客の悪意なき好奇心で侵害されつつあることを考えさせられるものだ。
観光振興と動植物との共存のバランスは非常に難しい中で、既に知床ではこの15年で各種取り組みが行われている。
ガイド付きツアーやピーク時のバスでのコントロール。知床五湖では立ち入り認定申請をし、レクチャーを受け、チケットを購入した人しか入れないプログラムを展開。船で海から見学することで、そもそも熊との接触を回避できるようなツアー化等、管理されたプログラムが増えて定着しつつある。
それでもまだ、自由に車で入れるゾーンがある中で、来訪者の無知の好奇心からさらされる危機や今後の共生バランスの在り方に関して、そのリミットを考えさせられる作品である。
”しれとこで夢を買いませんか”とのメッセージで、1977年から始まった「しれとこ100平方メートル運動」を起源として、長年先進的取り組みをしてきた知床エリアだからこそ、きっと次の答えを見つけてくれるに違いない。
世界自然遺産認定は観光促進のプラスの側面だけでなく、この地域経済と動植物保全の絶妙なバランスの在り方がより問われている。コロナの影響による、自然ブームは結果的に参加者の意識の啓蒙や、ルールを守った参加者だけを受け入れ可能とする流れを加速できる大きなチャンスでもある。
これからの叡智(えいち)を集結し、各地らしい持続可能なモデルが進化していってくれることを願いたい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)