メジャーなスポットだけでなく、周辺に点在するスポットをもっとつないで、地域全体の滞在性を上げていきたいという需要はどこでも出てくる課題である。2次交通としてバスやタクシー、レンタサイクルといった手法の整備は多くのエリアで展開しているだろう。
そんな中で、一つ注目する取り組みとして、城崎温泉で株式会社たびぞうの提供する城崎ぷちたび電動バイクの事業が面白いので紹介したい。
年間100万人近くが訪れる城崎温泉。温泉巡り、カニといった需要はかなり拾えている中でも、周辺の玄武洞、コウノトリの生息地、志賀直哉「城の崎にて」ゆかりの地、竹野海岸や来日岳、すぐそばにある田園風景といったスポットを巡ってもらう手段として電動バイクのレンタル事業を手掛けている。
このレンタルの特徴は単純な貸し出しでなく、そこに別の魅力を組み合わせることで、この夏1人2千~5千円のセルフガイドツアーで月間300人以上の利用実績につなげることができている。成功の理由を整理してみたい。
(1)見た目の可愛さ
電動バイク自体が可愛らしく、乗ってみたさを増長させるものになっている。まちなかで他の人が乗っているのを見ると、宣伝効果で新規客獲得につながっている。
(2)迷いを楽しさに
縮尺にとらわれない心をくすぐるイラストマップを配布し、地図やGPSに頼らず、あえて迷いながら目的地を周遊させる企画に成功している。
スポットに行くことが目的ではなく、仲間と一緒に迷いながら散策できる仕掛けがあることで、移動自体に楽しみを持たせているのも特徴だ。
(3)複数コース
コースを複数作ることで、また別のルートを巡ってみたいという需要の獲得にもつながっている。先述の周辺スポットを巡る企画を、全4コース整備することでリピーターも増えている。
(4)エコ配慮
30キロ走っても使う電力代はたった10円。ガス排出もなく、カーボンニュートラルに対応した電動バイクなので、環境意識の高い人も喜んで参加できる。SDGsに配慮していることで、共感も得やすくなっている。
(5)SNS拡散
インスタに特定のハッシュタグをつけてとっておきの写真をアップしてくれたら、その写真をプレゼントという企画を動かしている。結果、城崎温泉というキーワードからこの電動バイクに乗っている画像がかなりひっかかるようになっており、このシーンを再現したいという若者需要を拾えている。
その他、ホスピタリティ等いくつかの要素もあるが、コロナ禍の昨夏からの開始後、短期間でここまでの実績をあげたことは大きな成功事例だろう。
このたびぞうから学べるのは手法としてのハード整備だけでなく、参加者目線でのワクワクの設計・時代ニーズにこたえるような企画が増えることで、滞在時間、リピーターを増やす地域が全国に広がっていくことを期待したい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)