コロナの影響も間もなく丸2年が経過しようとしている。オミクロンによるまん延防止等重点措置の32都道府県程度への発令拡大の流れから、徐々に回復してきたことに期待し始めていた観光業界には、また心の折れる状況になってしまった。
これまでの間、どの観光地もただ指をくわえて復活を願っていたわけではない。多くの地域においてできる手を打ち続けており、その成果も一定数生まれつつあることは非常に心強いことだ。過去の延長線上でなく、新たな価値文脈で、各地のポジショニング、ターゲット、戦略といったものの見直しがなされて動いていることは意義ある取り組みである。
特にオーバーツーリズムに悩まされていた地域においては、キャパシティの再定義や地域の持続性へのバランスに関しても見直すよい流れが生まれている。その際に、考えていきたい概念が「ライトサイジング」である。日本語では「適正受け入れ人数設定」といえばよいだろうか。
すなわち、地域の持続性を考慮して、観光がもたらす地域の環境、生活、経済的な負荷との適正な受け入れの在り方を明確にして、受け入れ可能モデルを構築していくことをいう。以前は「キャリング・キャパシティ(環境収容能力)」という言葉でも表現されていたが、コロナ禍において、ライトサイジングという言葉の方が海外でよく使われるようになってきている。
これまでの日本の観光においては、よほどの事故等が発生しない限り、人数制限をすることはあまりなかったといえるだろう。渋滞や行列こそにぎわいだと認識して、むしろそれを楽しんできた側面すらあるかもしれない。
ただし、これからを考えると、地域にとってベストなバランスを今のうちに構築し、時季や時間、ゾーンの適切な配置を考えていく大きな機会ができたとも考えられる。
コロナの影響で少人数化やプライベート化が加速して、自分たちだけでとっておきの場所で、ゆっくりと滞在することに少しプラスのお金を払うこと等に関しては消費者も価値観が変容し、むしろその良さを体感したが故に、今後受け入れ制限に関してのクレームも軽減が期待できる。
今だからこそ、継続的に来訪者満足度を維持するために、どんなモデルで受け入れていくことが地域を含めた双方の幸せにつながるのかを考えていきたい。ダイナミックプライシングや事前予約制等、さまざまな取り組みが可能である。コロナ前ではなかなか導入が難しい側面があっただろうが、回復を前に今からテストケースとして位置づけ、その実証をして地域に仕組みの財産を構築してほしい。
ライトサイジングへの移行は、今しかできない大きな決断でもある。地域全体で協議し、共通ビジョンに向かって地域の受け入れ態勢をアップデートしていく好機にしていってもらいたい。より良き観光再生のために、今しかできないことはまだまだたくさんある。
(地域ブランディング研究所代表取締役)