「北海道新幹線シンポジウム:新幹線倶知安駅と歩む観光まちづくりの未来」が3月19日に北海道ニセコエリアの倶知安町で開催された。国土交通省北海道運輸局と鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)の主催であった。
私が懇意にしている鉄道・運輸機構の水嶋智副理事長からお誘いいただいたので、私もシンポジウムに参加した。山田桂一郎氏(JTIC.SWISS代表)による基調講演、北海道新幹線延伸建設の進捗(しんちょく)状況報告などに続いて、倶知安町の地元関係者などによるパネルディスカッションが行われ、盛会であった。
私はこれまで北海道新幹線の札幌延伸計画については全く関与してこなかったが、今回のシンポジウムに参加して、2030年度末の開業を目指して約1兆6700億円の国費が投じられ、着実に工事が進展していることを知った。新函館北斗駅から札幌駅まで約212キロのうち約8割がトンネル区間で工事が進んでいる。札幌延伸が実現すると東京―札幌間が約5時間で結ばれる。
私は関西出身で06年に北大観光学高等研究センターを創設したが、それ以前は神戸に居住していて毎週の東京出張では、全て新幹線を利用した。ところが北海道に移住して驚いたのは、道民があまり北海道新幹線に期待していないことだった。新幹線の利便性、快適性を経験していないので仕方がないが、非常に残念に感じた。
北海道の近未来にとって、札幌までの新幹線延伸は極めて重要な国家的事業である。またニセコエリア(倶知安町、ニセコ町)では外国資本による高級リゾート開発が相次いでおり、すでに大きな劇的変化が生じている。さらに倶知安には新幹線駅が建設されるのでニセコエリアの中心地としての役割が期待されている。しかし現実にはリゾート地区(やま)と地元住民地区(まち)との間で適正な交流・連携が行われているとは言い難い。
私は03年に当時の小泉純一郎首相の下で設置された「観光立国懇談会」メンバーとして何度も首相官邸に出向き、観光立国の基本理念、観光革新の在り方、観光立国実現の戦略などについて議論を行い、懇談会報告書のために「観光立国の意義」について起草を行った。その中で観光立国の基本理念は「住んでよし、訪れてよしの国づくりを実現することにある」と提唱した。
ところが安倍政権・菅政権は「観光の量的拡大」を意図したインバウンド観光立国を強力に推進し、コロナ禍によってもろくも破綻した。北海道新幹線延伸に伴う地域づくりは、ぜひとも03年に提唱した「住んでよし、訪れてよしの国づくり」という理念に基づいて進めてもらいたい。奇しくも3月下旬に開催された並行在来線函館線(長万部―小樽間)沿線の9市町と北海道とによる会合で、鉄路の廃止と全線バス転換が正式決定された。
北海道新幹線延伸も国際リゾート開発も共に大切であるが、地域住民がそれらの重要な事業の意義を理解し、地域の未来を創造していけるように「民産官学の協働」によって「七難八苦の解決」を図るべきであろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)