先日、インドネシアの世界遺産の仏教寺院ボロブドゥール遺跡において、インドネシア政府は新たに「入構料」を設定し、外国人観光客から100ドル(約1万3500円)を追加徴収する方向で検討開始の報道がなされた。現状、周辺の遺産公園へは11歳以上に課される入園料25ドル(約3300円)を払えば寺院にも入れるので、実質5倍となる。
頂上を含む寺院内部に入るための料金を新たに設けて、インドネシア人からも75万ルピア(約6800円)を徴収し、1日の入構者を1200人に制限するという。現状、インドネシア人の入園料は5万ルピア(約450円)であり、相当な値上げとなる。
併せて地元の雇用促進のために、ガイドの同行を求めること等も含まれている。まだ、構想段階で決定ではないようだが、今後文化遺産における観光の在り方として一つの大きな事例となることは間違いないだろう。
もしこれが進んだ場合、コロナ前には1日1万人が訪れていたボロブドゥールという観光地において、寺院内部は1日1200人という人数制限が加われば、地元商店の顧客減等の影響がないとは言い切れない。しかし、インドネシア人の大学新卒の月収が約3万円とされる中で、こうした外貨獲得手段が確保されれば、地元雇用においてガイドが一つの花形職業になるだろう。
高収入保証のモデルに転化されることができれば、地域自体の底上げにつながっていくことは間違いない。そして、文化遺産の保守・保全という側面においてもよりよい効果が期待されるだろう。
世界がアフターコロナに向けて一気に動き始めている中で、単純に元に戻すという力学ではなく、よりよき未来のためにという観点で、戦略の整理を始めている。こうしたサステナブルツーリズムへの転換は、オーバーツーリズムや維持管理、地域経済との共生等の課題を抱えていた観光地において、どうあるべきかを考えさせられるものだろう。
内需も強く、国内経済が好調とは言い切れない日本においては、料金の値上げは国内の声としてなかなか受け入れが厳しいかもしれない。
2015年に姫路城の入城料が600円から千円に引き上げられた過程においても(改修中は400円)かなりの議論がなされた背景があるが、世界の水準からすると、この千円ですらリーズナブルと考えられるだろう。また、1ドル135円前後まで達したここ20年で最高水準の円安傾向という観点から見ても、訪日客においてはよりリーズナブルに感じると考えられる。
国内においては、サステナブルツーリズムへの転換の空気が醸成され切っていないところではあるが、世界のトレンドはもう後戻りしないところまで来ている。今後の各種文化・自然遺産の維持管理や地域経済への波及効果を考えた、あるべき姿から逆算したプライシングに関して議論が進んでいくことを期待したい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)