サステナブルツーリズム促進の必要性は各所で高まっている。ブッキング・ドットコムが世界32の国や地域の旅行者を対象に行った2022年度版「サステナブル・トラベルに関する調査」では、世界と日本のギャップが大きいことが注目されている。
「今後1年間において、よりサステナブルな旅を心がけたい」と回答した世界の旅行者は71%、日本の旅行者は46%。「宿泊施設と旅先までの交通手段を選ぶ際に、提供会社のサステナブルな取り組みが選択に大きな影響を与える」と回答した世界の旅行者は35%、日本の旅行者は13%、と大きなギャップがあることが指摘されている。
このサステナブルというテーマ性においては、マクロの地球規模のSDGs的要素とミクロの地域社会的要素の両方が必要であると考えている。ただし、日本国内での取り組みはマクロに主軸が置かれ、ミクロの地域社会への視点が弱いことが気になっている。とかくサステナブルに取り組むことが目的化されていくと、手段の目的化になりかねないし、地域の共感を得られないのが課題だろう。一番大事な視点は、地域として何を持続可能なものとして遺していきたいのかを明確にすることだと考えている。
その時に逆転の発想で一度整理してみてほしいのが、このまま何もせずに放置したらその地域の文化や社会がどう変化していくのか、10年後、20年後の像としてシミュレーションをすることだ。人口減、高齢化、後継者不足、生産年齢人口・若年層減少、産品販売減少、文化財保護の担い手不足、耕作放棄地増加、空き家増加等々、どんな未来が予測されるだろうか? そして、その地域社会の変化に伴って、今まで地域の皆さんが大事にしてきたどんなことが、どんな危機に直面するリスクがあるのかを真剣に考えてみてほしい。
祭り等の行事ができなくなる、里山が荒れ果ててしまう、神社仏閣の維持ができなくなる、伝統芸能が存続不可能になる、絶滅危惧種が見られなくなる等々。そんな未来に対して、地域の皆さんはどんな感情になるのか? それは耐えられるものか、耐えがたいものなのか? 地域の皆さんのアイデンティティとして、一番大事なものが何であるかを徹底的にあぶり出してほしい。
そして、絶対に失いたくないものを遺すために、ツーリズムをどう活用して、その持続性に積極参画してもらうのかという観点で整理を進めていってもらいたい。
地域におけるサステナブルツーリズムは、地域の皆さんが遺したいものを、その価値を理解してくれる旅行者と一緒に持続していくための積極的活動が組み込まれたツーリズムであると考えてもらいたい。世界ではその価値観を大事にしながら、ツーリズムに参加する旅行者の数が拡大中であり、国内においてもその流れが加速している。
やらされのマクロのSDGs的取り組みでなく、地域の未来を旅行者と一緒に創り上げていくワクワクした関係人口・応援団創出プログラムを各地に根付かせることで、地域の積極的再生モデルを構築してもらいたい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)