10月11日から水際対策が一気に緩和され、インバウンド回復に期待が寄せられている。その中でも富裕層の受け入れは重点戦略として観光庁や日本政府観光局(JNTO)も強化している。着地消費額1人当たり100万円以上の層は、コロナ前で見ると人数にして訪日旅行客の約1%・29万人にすぎないが、消費額は11.5%・5500億円を占めている。
JNTOでは富裕層をクラシックラグジュアリーとモダンラグジュアリーという二つのカテゴリーに分けて整理している。
クラシックラグジュアリーは、従来型のラグジュアリー志向の方々で、50~60代が中心。全てにおいて高い快適性や豪華さを求めるような層である。世間における評価や慣れ親しんでいることを重視し、旅先においてもいつも同じ水準を追求する傾向が強い。
それに対し、モダンラグジュアリー層は新型のラグジュアリー志向とされ、新しいことへの挑戦や贅沢より経験、自分にとっての意義を重視する層とされている。ホンモノ体験やエコツーリズム・サステナビリティ、一生に一度の体験といったものを重視する傾向が強い。
今後、地方への訪日旅行客の誘致拡大において、このモダンラグジュアリー層の誘致も大きな鍵となってくる中で、その志向に合わせた体制の整備は大事な軸となる。
当方もサステナブルツーリズム促進等で、モニターツアーやファムトリップの支援を各地で行っているが、これらの層の誘致において大きく分けて三つほどの留意点があると感じている。
一つ目が、クラシックラグジュアリー、モダンラグジュアリーという概念自体がJNTOを中心とした日本の観光戦略でカテゴライズされたものであり、欧米系の旅行会社にはキーワードとして、コンシャス(意識的な)やトランスフォーマティブ(人生をより豊かにする)といったものに置き換えた方が伝わりやすいといった指摘だ。こちらについては分かりやすいプレゼンを心がけたい。
二つ目は、とにかく各種調整の柔軟さが重要という点は口酸っぱく指摘されている。旅程は詰め込みでなく、その時の体調や気分により変更はあって然りという前提で組み立ててほしいとのこと。
地域の方にとっては煩雑になり申し訳ないが、地域側が悪いわけでもなく、本来の目的である滞在を楽しむ目的での変更なので、そうした顧客志向を理解してほしいとのこと。もちろんキャンセル料は100%支払う前提である。
三つ目は、体験をするというより地域にある思いを持った人の生き様を知りたい、交流したいという需要が強いということである。説明をするのではなく、ポイントを伝えたらあとは交流の中、流れの中で質問をうまく橋渡ししていくという役割が求められている。
一気に戻ってくる訪日旅行客に対して、ターゲットごとの需要の理解とそれに伴う対応の底上げは急務である。観光業界を稼げる産業に変えていく目的において、これらの層にも喜ばれる地域の受け入れ態勢を強化していき、早期回復を期待したい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)