【私の視点 観光羅針盤 361】料金設計の新基準「貸し切り価格」 吉田博詞


 これまで旅行商品の料金設定は1人当たりいくらという設定が一般的だった。最少催行人数と最大催行人数を明確にして、それを1人当たりで割り、一定数集まればペイするという前提で料金が組み立てられていた。団体旅行を主として、数を仕入れるがゆえに特別に団体価格として料金を抑えて仕入れ、それをお得感で流通させていく形式においては、このモデルが主力となってきた理由は十分に理解できる。

 ただ、昨今の高付加価値化や少人数型の旅の需要に対しては、この弊害が生まれつつあるように感じる。今後、貸し切り等を想定した「貸し切り価格」というものがもう一つの料金モデルとして普及し始めており、この流れは加速していくだろう。

 コロナ禍では、家族や気心の知れた人だけで部屋、船、席等の全部あるいは一定区画を貸し切りにして特別な時間を過ごすという需要が高まってきている。その際に料金設定も1人当たりいくらというスタイルではなく、部屋代等特別チャージを払ってもよいので、他のお客さまとの交わりをできる限り減らすといったことや、特別な演出や時間のためにお金を払うことにはむしろ積極的な反応が増えていくと考えてよいだろう。

 海外においては、宿泊施設の料金は1人当たりでなく、部屋単位であるように国際水準で考えるとこれらは当たり前の考えである。旅行会社を主とした団体旅行やリセールが当たり前だった時代の名残が徐々に変化しつつあると考えれば、この流れには納得がいくだろう。

 この究極系が、MICE開催時に歴史的建造物や公的空間で特別感や地域特性を演出するユニークベニューであり、富裕層向けにも期待されるプログラムになりつつある。それが、国内の一般消費者における特別な時間の演出においても、こうした貸し切り需要が増えてきていると考えていけばよいだろう。

 この変化に対して、提供側の準備はまだ追い付いていない印象が強い。準備が大変だ、値付けが難しいといった声が出てくることも多い。その際に考えてほしいのが、通常プランの魅力を高めて、単価アップをしていきたいなら、なおさらこうした企画をつくっていくことが賢明ということだ。
 そして値付けに関しては、元が取れてむしろ利益が出る料金体系を提示していけばよい。その料金に見合ったサービスを展開できるようになることが、提供者のサービスの底上げにつながるからだ。

 コロナ後を見据え、団体を中心としたプランだけを数多く売ろうとするのではなく、提供できるプランの松竹梅をしっかりと準備して、展開することができれば満足度も向上して、リピーター確保やブランディングにつなげていけるに違いない。

 都市部においてはかなり増えてきているこうした展開だが、地方でも先に展開したところには徐々によい流れができ、さらに磨きがかかっている。日本各地の高付加価値化において、しっかりとこうした展開が加速されることを期待したい。

 (地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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