【私の視点 観光羅針盤 371】伝統文化伝承のためのプログラム 吉田博詞


 昨今、伝統工芸や文化の体験プログラム化の動きが加速している。国内だけでは需要が先細りする中で、その伝承のためのプログラムを国内外の方々に応援してもらい、しっかりと形にしていくことが大事である。以前もこの欄で伝統工芸のプログラム化における、目的、受け入れ頻度や条件、価値の定義、プラン設定、購入動線という五つのポイントをお伝えした。私自身この1年間、日本の各所でこれらの展開をお手伝いする中でより進化の在り方を考えることができたので、そこで見えてきたポイントをまとめたい。

 まず、プログラムの設定に関して整理してみたい。高知の土佐和紙伝承を進める井上手漉(す)き工房さんでは90分の体験プログラムはもちろんのこと、1日、3日、1カ月、1年といったプログラムを開発している。体験の位置づけを二つの目的で考えているのが特徴である。

 一つ目は「商品の販売拡大」である。まずは潜在客を獲得するために、作り手の思いや伝承のストーリーを知ってもらう。さらに学びたい、知りたい人に向けては、1日や3日の本格的なプログラムが準備され、リピーターそしてファンになっていく仕掛けが施されている。90分の体験で物足りなかった人が、次はもっと深く学びたいと感じてもらえる動線が設計されている。

 二つ目が「担い手育成」である。1カ月や1年という弟子入りコースがあるのが特徴だ。本格的に技術習得をして、自身の成長や実際に地域で活躍する担い手になってもらうことを目的としている。事前に3日プログラム等に参加していることが条件なので、人となりや考え方、姿勢に関してもお互いに理解をして共感した人が対象となる。さらに深掘りしたい人は、弟子入り等をしながら将来の後継者候補になっていく展開となっている。

 体験提供を、その価値を知ろうとする方々との交流のきっかけとしても展開し、その将来の担い手候補との接点をもつための機会として、90分プログラムの提供頻度も高めていこうという流れは注目したい。

 同様の動きは、福島の土湯こけしや出ヶ原和紙、熊本の侍文化プログラム等においても準備が進められている。これまで旅行会社より教育旅行等の要請から体験プログラムを開発していた文脈とは大きく異なり、地域側や受け入れ側にとって非常に意味のあるプログラムになっている。

 こうした動きを、地域おこし協力隊やふるさと納税等の地域にまつわるさまざまな制度ともうまく連動できれば、さらに面白い取り組みになっていくに違いない。

 コロナ禍の3年で一般消費者において本質的な事柄への興味関心や理解が進み、応援をしていく流れがより加速している。大きな変化の潮流の中で、伝統文化の体験・交流においても、上記二つの目的からプログラムのラインアップをそろえたモデルにしていければ、地域の大事な文化伝承がよりよいフェーズに進んでいくだろう。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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