【私の視点 観光羅針盤 379】G7広島サミットと宮島の課題解決へ 吉田博詞


 G7広島サミットの関係閣僚会合が各地で開催されている。メインである首脳会議は5月19日から21日にかけて広島で行われる予定で、広島に訪れると警備体制の強化が目立つ。首脳らは、広島平和記念資料館や廿日市市の宮島も訪問する予定だ。

 宮島においては、5月18日より3日間入島制限が行われ、外務省が発行する識別証を持っていない人は入島できない。住民や配達事業者、通勤通学者に識別証を発行し、島内店舗への休業要請も検討されているという。休業補償は現段階では検討されていないようだが、G7後の波及効果で十分挽回できるだろうとの見立てのようだ。

 宮島が直面している課題はいくつかあるが、三つを取り上げてみたい。一つ目が、過疎問題である。1947年の5197人をピークに、現在は1500人弱まで減少し、過疎化が進んでいる。観光の島としてだけでなく、住民にとって住みやすいまちづくりの強化が期待されている。

 二つ目がオーバーツーリズムである。1875年に建てられた嚴島神社の8代目大鳥居は3年半にわたる大改修工事が昨年末に完了した。コロナ前の2019年には過去最高の約465万人が来訪し、オーバーツーリズムの課題は指摘されていたが、今春の来訪者数はすでにコロナ前を超えそうな勢いだ。来訪者が増えても、1人当たりの消費金額は2018年時点で3990円と必ずしも高くはなく、ゴミやトイレなどの整備課題も発生していた。

 三つ目が、高付加価値化である。日本三景であり、世界遺産であることや、欧米豪の観光客比率が高いことなど大きな潜在性がある。しかし、これまでの団体旅行向けからのアップデート半ばであり、価値を伝えられるガイドの不足も課題としてあげられる。

 これらの課題への取り組みとして二つの動きに注目したい。一つ目が、G7に先駆けて持続可能な観光地域を目指す「千年先も、いつくしむ」プロジェクトだ。日本三景であり、世界遺産である宮島は、1400年前に嚴島神社が創建されて以来、神の島として崇められ守られてきた歴史的な持続モデルを再認識し、取り組んでいこうという動きだ。

 もう一つが、今年10月より開始予定の訪問税だ。入島者1名あたり100円を徴収し、観光から発生していた課題に対する取り組みを進めることが予定されている。適切な活用のシナリオを描くことで推進されることを期待したい。

 G7の機会はまたとない好機である。世界各国からの注目だけでなく、評価を得ることで地域全体のアイデンティティを取り戻し、好循環につながることを望んでいる。同じ歴史・自然を活用した世界遺産において、田辺市熊野ツーリズムビューローの取り組みは、高付加価値型で持続可能なモデルへという観点では一歩先を行っていると考えている。これらの先進事例も参考にしながら、大きくアップデートされることを期待したい。

 (地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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