【私の視点 観光羅針盤 380】古民家改修のヴィンテージ宿 吉田博詞


 ヴィンテージ(ビンテージ)とは「古くて価値が高いもの」「年代もの」という意味。もともとはワイン等の価値を評して使われ、日本ではファッション用語としての使われ方のほうがなじみのある言葉だ。ヨーロッパでは、代々使われてきた家具や日用品を修復しながら使い続けていくことに価値を見いだしており、歴史的な建築物も補修しながら使うことに大きな意味がある。日本では、地震大国という理由もあり耐震性等の課題から、建物をスクラップ&ビルドでアップデートすることが主流であった。ただ、昨今地方の宿泊施設では、NIPPONIAを代表する古民家改修等において、ヴィンテージの価値観がどんどん拡大していることは非常に良い流れだと考えている。

 コロナ禍を経て宿泊においても、一棟貸し切りや小さな宿でこじんまり、ゆったりと過ごしたい需要がより加速している。この時、新たに建築するものだけでなく、古民家の改修や移築といったものの評価が上がり、各地で急拡大している。代表格であるNIPPONIAはその発端となった丹波篠山だけでなく、今では北海道函館から沖縄やんばるまで全国30以上のエリアで提供されるまでに至っている。また、同様に古民家等をうまく活用した宿として、新潟の里山十帖やryugon、富山の楽土庵、山形の山形座瀧波、長野のBYAKU Narai等、続々と注目される宿が生まれている。

 いくつかの共通する特徴を整理してみたい。まず空間においてそもそもの日本家屋の特徴を最大限生かしつつ躯体は古くてもしっかりと必要な補強を行い、水回りや空調、寝具は快適なものに改修されていることがあげられる。客単価は大体3~5万円程度が相場となっており、温浴空間もこだわりを持ち、家具や食器は地域らしいものをうまく活用して地域の伝統を体感できるようになっている。

 次に、食事においては、提供される料理も地域の旬を大事にした食材を中心として構成されており、高級食材を並べるというわけではなく、その地ならではの風土を大事にした食事スタイルを提供している。地域の農家や提供者をリスペクトした上で、料理人が一手間を加えて価値を体感できるよう工夫されている。

 さらに、お土産コーナーにあたるショップでは、宿で活用している調度品や地域の伝統工芸品を購入でき、その後も日常遣いしながらその地に思いをはせることができるような仕掛けが組まれている。

 最後に、宿や地域自体の価値を編集して伝えるプロデューサーやストーリーテラーがいて、その思いが冊子等にうまく編集され、必要に応じて程よい説明がなされることで、過剰な演出ではなく共感してもらえる仕掛けが展開されていることも特徴だろう。

 これらの宿では続々と地域のヴィンテージの再編集がなされ、地域全体の価値の底上げにつながっている。こうした動きが加速することで、地域文化のヴィンテージ化も同時に進んでいくことを期待したい。

 (地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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