広島市で開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)が無事に終了した。ロシアによるウクライナ侵攻や中国による経済的・軍事的威圧などが現実化し、世界が不透明化する中で開催されたサミットであった。ウクライナのゼレンスキー大統領がサミットに対面参加するなど画期的なサミットになった。
第1回サミットは米英仏独伊日の首脳が参加して1975年にフランスで開催され、その後にカナダが加わったG7サミットが毎年開催されてきた。G7諸国は長らく世界の国内総生産(GDP)の6割以上を占めてきたが、21世紀に入ってから比率が低下している(21年は約4割)。
そのため99年からG20首脳サミットが開催されている。G7諸国の他に、中国、ロシア、インド、ブラジルなどの新興国首脳の参加による会合だ。
今回のサミットでも国際社会で重要性を増している「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国を代表するインド、ブラジル、インドネシア、ベトナム、コモロ、クック諸島の首脳が招待された。
日本は長らくアジアからの唯一の参加国として、G7サミットで重要な役割を果たしてきた。日本は第2次世界大戦の敗戦国であったが、1960年代以降における高度経済成長によって、世界第二の経済大国へと発展した。79年には、ハーバード大学のE・ヴォーゲル教授の著書で『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と称揚されるとともに、81年には、マレーシアのマハティール首相が提唱した「ルック・イースト政策」で途上国のお手本として日本を見習うべきと絶賛された。
ところが、91年にバブル経済が破綻して以来、日本の長期停滞・低迷が続いている。岸田政権は広島サミットの成功による支持率の上昇で浮かれているが、世界の中の日本の位置付けは極めて低下している。
日本の同盟国であるオーストラリアの豪戦略政策研究所(ASPI、国立の研究機関)は今年3月に、経済や社会や安全保障などの基盤となる先端技術の国別ランキングを公表している。
ASPIはエネルギーや人工知能(AI)、宇宙、防衛分野などの44項目について、18~22年に発表された影響力のある論文を詳細に分析した結果、中国が37項目で1位を占めたとのこと。米国は7項目で1位、32項目で2位にとどまっている。ASPIは「防衛、宇宙、安全保障関連技術の研究において、中国の優位性は明らか」と分析している。中国と米国以外の国で、5位以内に入った項目数は、インドと英国29、韓国20、独17、豪州9、伊7、イラン6、カナダと日本4。
国費500億円を投入した三菱重工業の国産初のジェット旅客機開発断念、宇宙航空研究開発機構のH3ロケット打ち上げ失敗、コロナワクチン開発の破綻などが相次いでいる。G7サミットの成功に酔いしれる前に、日本の現在の実力を冷徹に見直すべきであろう。
今後の日本の観光立国を視野に入れると、中国やグローバルサウスとの良好な国際関係の構築が不可欠になる。国力の著しい低下を前提にして、近隣諸国との平和的関係の構築を賢明かつ持続的に図ることこそが広島でのG7サミット開催の意義であろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)