【私の視点 観光羅針盤 389】商人がけん引する喜多方 吉田博詞


 蔵のまち福島県喜多方。この喜多方には三つの名物がある。

 一つ目が蔵だ。人口約4・2万人に対し、蔵の数は4千棟あまりが現存しており、その数は日本一とされている。埼玉県川越市、岡山県倉敷市と並び「日本三大蔵のまち」といわれている。飯豊山系からの良質な水と米に恵まれた土地ならではの醸造業を営む場として、蔵は最適な建物であった。

 また、男たちの夢の結晶として、「四十代で蔵を建てられないのは、男の恥」とまでいわれ、自分の蔵を建てることが、情熱をかけた誇りの対象でもあったことで蔵が数多く生まれるに至ったようだ。重要伝統的建造物群保存地区にも指定され、蔵やまち並みの価値を再認識し、積極的な活動が行われてきた歴史がある。

 二つ目がラーメンである。ラーメン店数は約120と人口当たりの店の数では日本一ともいわれている。博多ラーメン・札幌ラーメンと並んで日本三大ラーメンとも称され、大正末期から昭和初期に始まり、その歴史はすでに90年を超えるものとなり、このラーメンを目的に訪れる人も多い。

 三つ目が日本酒だ。福島県は昨年まで9年連続、全国新酒鑑評会で最多の金賞を受賞してきた。喜多方のお酒も数多くの賞を受賞しており、歴史がある中で今も工夫し続ける酒造が多い。現在も11の酒蔵があり、人口比でみると全国有数の数となっている。

 これら三つの名物が生まれ、育まれた理由として地理的要因と気質的要因があげられる。地理的な側面では、飯豊山系のおいしい伏流水がある。飯豊山は日本百名山の一つでもあり、標高2105メートル級の山々から途切れることなく湧き出る豊かな水があったからこそ、これらが潤沢に整備できたといえるだろう。

 もう一つの気質の側面では、同じ会津地域において、会津若松市と喜多方市はいい意味で別物だと意識しながら活動してきたことがあげられる。武家の力が強かった会津若松に対し、商人のまちとして栄えてきた喜多方には商人プライドが根強く残っている。江戸時代に近江商人を呼び寄せて、商人のまちとしての基盤を整えてきた歴史がそのまま受け継がれ、ビジネス感覚を持ちながらチャンスをつかんできた流れは地域のアイデンティティといえるだろう。

 現在も、商工会などで若手経営者同士がつながり、先人たちが築いてきたものを継承しつつ、新たな価値文脈で、再構築していく精神は非常に興味深い。昨今では、大和川酒造の佐藤さんや山形屋の瓜生さん、北見八郎平商店の北見さんらが、夜も滞在したくなる要素づくりに向けて活動していることに注目している。

 全国各地で若手経営者が果敢に地域をけん引する活動は大きなパワーとなっているように感じる。経営目線での程よい世代交代がなされ、商人気質でまちを元気にしている喜多方のDNAから学べるものは大きく、参考にしていきたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 

 
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