【私の視点 観光羅針盤 429】熱気あふれる江戸三大祭り 吉田博詞


 東京・江戸の下町が活気づく夏の祭りシーズンがやってきた。5月以降、東京下町各所で祭りが催され、まちが熱気に包まれていく。私も浅草三社祭に参加してきたが、今まで以上に地元民と国内外の観客が共に熱狂空間に酔いしれる姿に、改めて文化的な価値を体感できた。

 そもそも三社祭は、神田明神神田祭、日枝神社山王祭、と並び、江戸三大祭りとされている。庶民文化が華開いた江戸っ子気質のアイデンティティの代表格が祭り文化といえるだろう。以前三社祭の特徴を紹介したので、今回は他の江戸の祭りを整理したい。

 神田祭と山王祭は天下祭または御用祭ともいわれ、隔年で交互に開催され、山車が江戸城内に入御し、将軍を拝謁(はいえつ)することができた。

 神田祭は千代田区にある神田明神の祭礼で、神田、日本橋、秋葉原、大手町など108の氏子町に愛されている。徳川家康が神田明神に関ヶ原の戦いの戦勝を祈願したといったエピソードも残っており、江戸の総鎮守とされた歴史が息づく祭りだ。

 山王祭は、千代田区永田町にある徳川家の産土神とされた日枝神社の祭礼である。期間中数多くの行事が開催される中でも、神幸祭は、王朝絵巻のような宮神輿(みこし)や装束の優美さが有名で、皇居、丸の内、霞が関、銀座、日本橋などをめぐる今年は山王祭の年にあたる。

 江戸三大祭りの括りは諸説ある。8月15日前後に開催され、3年に一度の本祭りでは120基を超えるみこしが練り歩き、水かけ祭りとしても有名な江東区富岡の富岡八幡宮の深川八幡祭り。徳川将軍上覧の天下祭りの一つであり、4年に一度大みこしの巡業がある文京区根津神社の根津権現祭。毎年6月に開催され、千貫みこしと称され、都内で最も重いみこしともいわれる台東区鳥越の鳥越神社の鳥越祭などで構成されることもあるが、どれも活気にあふれ、江戸文化を体感できる特徴的な祭りである。

 広島育ちの私は祭りといえば、豊年祭のような秋祭りのイメージが強かったが、東京では夏に行われることに驚いた。農村部では豊作祈願と収穫を感謝し、収穫に影響する春・秋祭りを重視する地域が多く、都市部では東京の祭りや京都祇園祭のように災いの防除を目的として夏に行われる傾向が強いようだ。

 これら文化的な背景を学ぶことで祭りの価値を再認識できるだろう。もともと日本人はラテン的な気質も多く持ちあわせていたともいわれている。祭りは普段は真面目な日本人が文化的な地域伝承の要素を再認識し、次の世代に伝え続けていく大事な機会である。

 昨今、三社祭等は人気が非常に大きなものだが、数十年前は担ぎ手が全然集まらなかった時代もあったという。祭りや文化を大切にし、自ら汗をかいて応援したいという人も増えてきている中で、都心部以外の祭りの特徴も再認識され、継承のため応援団が形成される好循環の流れが構築されることを期待したい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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