昨今、各地で富裕層向けの誘客拡大が一つの目標となり、これを目指す地域が増えている。観光庁も高付加価値化や消費単価アップ、地方への分散化といったキーワードを掲げる中で、消費単価の高い顧客層を誘客していくことは重要なファクターである。
まず、日本政府観光局(JNTO)が定義するインバウンド富裕層とは、訪日1回における日本国内での1人当たりの消費金額が100万円以上の層を指している。欧米豪6カ国を中心とした富裕層は訪日全体の1%だが、消費金額でみると11・5%を占めており、この割合をさらに増やすための取り組みが進んでいる。
ただ、この富裕層という言葉は分かりづらいという課題があるように感じている。一般的に富裕層と聞くと、プライベートジェットでやってきて、高級ホテルに泊まり、豪遊するといったイメージを持たれがちである。そこで、富裕層におけるカテゴリーを分ける必要があるように考えている。その際、参考となるのは、訪日外国人旅行者のカード決済データによるTier(ティア)1・2というカテゴリーである。訪日消費金額に基づき、300万円以上をTier1、100万円以上300万円未満をTier2、100万円未満を一般層と分類している。ここで、一般的な地方誘客においてはTier1を主なターゲットとせず、Tier2を対象にすることで、持続可能な誘客体制の構築を推奨している。
Tier1への対応は、より丁寧なホスピタリティや個別ニーズへの柔軟な対応が求められている。これらを各地域で対応していくことは非常に難易度が高いと考えている。いわゆる超富裕層への対応となると、非常に難しいイメージで懸念しがちであり、当面はこの層を狙わないと定義するだけでも戦略の方向性が明確になるだろう。
では、Tier2における考え方を整理してみたい。昨今の円安傾向からすると、100万円という金額は約6500ドル、約6150ユーロとなる。ここにはいわゆるアッパーミドルと呼ばれる層の一定数が含まれる。
例えば、新婚旅行で少しぜいたくをしたい層や、シニアでゆったりと質の高いものを求める層、家族で特別な時間を過ごしたい層等が該当する。旅に成長や学び、特別な思い出を求めて相応の消費をする層であるといえる。欧米豪の旅行者は2週間程度の滞在をすることが多く、100万円の場合、1日当たり約7万円の消費が見込まれる。宿泊や交通費、食事、アクティビティ、ガイド等を含め、程よく良いものを提供できればこの消費金額は現実的だ。
富裕層の中でもTier2はアッパーミドル層を含むと捉えて、このクラスに対して各地で品質の高いサービスや体験を丁寧に提供することができれば、十分に受け入れが可能となり、必ずしも難易度の高い挑戦ではなくなるだろう。この考え方で各地が高付加価値化・単価アップを目指せば、好循環が醸成されるに違いない。ステップを踏んだ受け入れ強化を期待したいところだ。
(地域ブランディング研究所代表取締役)
(観光)経済新聞11月25日号掲載コラム)