【私の視点 観光羅針盤 454】またトラと地球温暖化 石森秀三


 今年11月にはグローバルな出来事が頻発した。まず大谷翔平選手は米大リーグのナショナルリーグ最優秀選手(MVP)に満票で選出された。アメリカンリーグのエンゼルスに所属した21年、23年に続き、2年連続3度目のMVPだ。大谷選手はまさに日本を代表するグローバル・スーパースターである。

 一方、米国の大統領選挙でトランプ氏が次期大統領に選出され、「またトラ」が現実化した。その上に大統領職と上下両院の全てを共和党が掌握する「トリプル・レッド」が実現し、米国第一主義を標榜(ひょうぼう)するトランプ氏は極めて強大な権力を得ることになった。

 11月中旬にはアゼルバイジャンで国連の気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が開催され、ブラジルで先進諸国や中国・露、新興国による20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開催された。観光産業の未来にとって大きな影響が生じる可能性が高い「またトラ」と地球温暖化の関係性に言及したい。

 15年にパリで開催されたCOP21において採択された「世界の平均気温上昇幅を産業革命以前と比べて1・5度以内に抑える」というパリ協定を、トランプ氏は1期目の大統領の時に「気候変動はでっちあげだ」と叫んで離脱した。米国はバイデン政権で復帰したが、トランプ氏は再び離脱すると表明し、化石燃料を「掘って掘って掘りまくれ」と主張している。米国は世界中で温室ガス排出が中国の次に多いために、地球温暖化への深刻な悪影響が強く懸念されている。

 地球温暖化に伴う「地球環境の危機」は21世紀の人類にとって深刻な多面的影響を与える。温暖化による居住地の水没、水害の多発、干ばつなどの災禍によって全世界で2億人を超える「気候難民」の発生が予測されている。

 気温上昇は農業適地を減らすために、世界各地で限られた食料を奪い合う状況になり、飢餓人口の増大が懸念されている。異常気象による豪雨や高温化は交通インフラにも大きな影響を与える。先進国の日常生活に欠かせないデジタルインフラは暑さに脆弱(ぜいじゃく)であり、世界各地で猛暑の影響による故障が相次いでいる。

 近年は日本でも猛暑、豪雨、豪雪による異常現象が頻発しており、大きな混乱と多大なる損害をもたらしている。

 「気候パンデミック(感染症の世界的流行)」も懸念されている。感染症を媒介する生物(コウモリ、蚊、ダニなど)にとって温暖化は行動範囲の拡大をもたらす。また北極圏の永久凍土には太古の病原菌が潜んでいるといわれており、温暖化によって地表に現われ、パンデミックをもたらす危険性がある。

 地球温暖化に伴う負の影響を最も深刻に受けるのはグローバル・サウスの国々・地域であるとともに、世界の観光産業でもある。先日閉幕したCOP29では発展途上国の地球温暖化対策のために先進国が35年までに年3千億ドル(約46兆4千億円)支援する目標で合意が成立。しかし、一大拠出国の米国がパリ協定から離脱すると日本には今後さらなる支援の拡大が求められる。

 コロナ禍の厳しい影響を経験した観光産業は、地球温暖化対策に対して官民連携協力を効果的に行う必要があるが、まずは自助努力の覚悟が不可欠になる。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)


(観光経済新聞12月2日号掲載コラム)

 
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