波乱に富んだ2024年が終わろうとしている。今年は「選挙イヤー」と称され、主要な先進諸国で重要な選挙が実施された。米国の大統領選挙では大激戦の末に共和党のトランプ氏が民主党のハリス氏を破り、政権交代が実現される。
EU(欧州連合)は6月の欧州議会選挙で自国第一主義を掲げてEUに懐疑的な極右や右派が大幅に伸長。フランスではマクロン大統領の与党連合(中道)が国民連合(右派)に歴史的な大敗北を喫し、国内の下院解散・総選挙に踏み込んだが左派連合が最大勢力になった。しかし、左派連合、与党連合、国民連合のいずれもが過半数に達せず、国内政治が大混乱に陥っている。
英国では7月に保守党スナク首相が下院の解散・総選挙を実施して惨敗し、14年ぶりの政権交代で労働党スターマー党首が新首相に就任。20年のブレグジット(EU離脱)で安い農林水産品の確保が困難になり諸物価が高騰、一方で外国人労働者の入国制限で大幅な人手不足が生じて国民の暮らしが不安定化し、保守党政権の惨敗につながった。
日本では岸田文雄首相が8月に退陣を表明し、石破茂氏が9月に自民党総裁に選出され、10月に内閣総理大臣に就任したが、直ちに衆議院を解散し総選挙を実施。自公与党は過半数を獲得できなかったが、11月召集の特別国会で石破氏が内閣総理大臣に選出され、11月29日の国会両院で所信表明演説を行った。
石破首相は所信表明演説の中で「全ての国民の幸せを実現するため、三つの重要政策課題への対応を進めます」と述べ、(1)首脳外交を経た今後の外交・安全保障政策、(2)日本全体の活力を取り戻す、(3)治安・防災について言及している。本稿では観光産業に関わりの深い「地方創生」に焦点を当てたい。
石破氏は14年9月発足の第2次安倍改造内閣で初代の地方創生大臣を務めて、東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけようとしたが、10年の歳月を経て、地方創生は実現せず、地方を取り巻く環境はさらに悪化している。
ところが石破首相は「地方創生の基本的な考え方を年末までに取りまとめます」とはぐらかし、「地方創生の交付金を倍増しつつ、前倒しして措置します」と述べている。自公政権による地方創生策が成果を挙げていないので、本来であれば、国が主導して補助金を出し、全国一律に引っ張る地方創生ではなく、財政面を含めて地方の自主性・自律性を重んじる方向にかじを切るべきなのに不可解である。
さらに地方創生を考える際に不可欠の要因になる「観光」についての明確な言及がないことについても違和感を感じている。私は所信表明演説を3回も読み直したが、「観光」の2文字が全く出てこないのは不可解だ。
日本政府観光局は今年の年間訪日客が3500万人を超えると予測し、19年の最多記録3188万人を超える可能性を示唆しており、政府は2030年に訪日客数6千万人の目標を掲げている。
にもかかわらず、国会における首相所信表明演説の中に「観光」の2文字がないのは不可解としか言いようがない。石破首相はよほど「観光」がお嫌いかもしれない?
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)
(観光経済新聞2024年12月16日号掲載コラム)