【私の視点 観光羅針盤 458】大混迷時代の観光立国 石森秀三


 世界が大混迷時代を迎える中で、日本はさまざまな内憂外患を抱えて、苦悩を重ねている。中央政界では昨年末の総選挙で自公が少数与党に転落し、経済面では諸物価高騰で国民生活に大きな影響が生じている。

 多難な状況の中でインバウンド観光立国は例外的に隆盛化している。昨年末に日本政府観光局(JNTO)は1~11月に日本を訪れた外国人客が推計3337万人になり、通年で過去最多であった19年の3188万人を超えたと公表し、観光庁は通年では3500万人に達すると予測した。

 24年のインバウンド(1~11月)の国・地域別のベスト5は、韓国795万人、中国637万人、台湾555万人、米国248万人、香港239万人。東アジア諸国・地域で全体の約66%を占めているが、トップの韓国では昨年12月に非常戒厳令宣言を発表したユン・ソンニョル大統領が国会で弾劾され、政権交代が現実化している。今年は日韓国交正常化60周年であるが「反日モンスター」のイー・ジェミョン氏が大統領に選ばれると、日韓関係は「悪夢のムン・ジェイン時代」よりもさらに悪化すると危惧されている。

 中国も経済不振が続く中で、トランプ大統領の再登場による米中貿易戦争の激化と習近平独裁体制のほころびが危惧されている。一方で中国は歴史的な軍事力増強を行っており、台湾武力統一の準備を強化している。台湾有事が現実化すると、東アジアにおける国際観光は悲惨な状況に陥らざるを得ない。台湾有事や朝鮮半島有事を想定すると、日本はトランプ政権の言いなりになって防衛費をGDP比3%に増やして米国製軍需品を買いそろえて軍備増強を図ることになる(25年度の防衛省予算概算要求額は約8兆5千億円)。

 25年度の観光庁関係予算概算要求額は約627億円であるが、そのうち470億円は国際観光旅客税財源充当で、一般会計は150億円に過ぎない。この予算額はF―35戦闘機の1機あたり価格に相当している。

 観光庁統計では、23年の訪日外国人旅行消費額5兆3千億円、日本人国内宿泊旅行消費額17兆8千億円、日本人国内日帰り旅行消費額4兆1千億円で、観光分野は合計27兆2千億円の国富を生み出している。にもかかわらず、観光庁の一般会計予算額はジェット戦闘機1機分に過ぎないというのは、ほとんど悪夢かと思えるほどの少なさだ。政府は30年の訪日外国人客数6千万人、訪日外国人旅行消費額15兆円を目標にしているが、今後もジェット戦闘機1機分の一般会計予算投入でごまかし続けるのであろうか?

 日本では既に少子高齢化が深刻化し、「2025年問題(団塊世代が後期高齢者になり、働き手不足の深刻化)と終活」が国民的課題になっている。アベノミクスの失政による超円安によって、インバウンド観光立国にはプラスになっても、日本の国富の流出に歯止めがかかっていない。今後、地球温暖化に伴う災害対策、外国人労働者受け入れ問題、観光人財の本格的養成問題、オーバーツーリズム対策など、大混迷時代における観光立国は数多くの難しい課題を抱えている。

 改めて「住んでよし、訪れてよしの国づくり」としての観光立国政策の真摯(しんし)な実現が急務であろう。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

(観光経済新聞1月6日号掲載コラム)

 
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