【私の視点 観光羅針盤 461】伝統的酒造りの活用加速へ 吉田博詞


 ユネスコ無形文化遺産に2024年12月、日本の「伝統的酒造り」が登録された。日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造りの知識と技術である「伝統的酒造り」は、日本酒、焼酎・泡盛、みりん等といった食産品にも発展し、日本各地の気候や風土に応じて形成されているのが特徴である。

 日本人は千年以上前から蒸した米の上にこうじ菌を育て、こうじ菌の働きを使って酒を造る知識と技を発展させてきた。後年その醸造技術が、蒸留技術と出会い、本格焼酎・泡盛が生まれ、本格焼酎とこうじが出会うことで本みりんが生まれたという発展の経緯を知ると、いかに私たちの食生活の中に伝統的酒造りの食文化が根付いているかということに気づかされる。

 この中で、日本酒にフォーカスして掘り下げてみたい。歴史をさかのぼると紀元前300~200年ごろに水稲の渡来と同じくして、米麹利用による米の酒造りが始まったと考えられている。西暦250年ごろには「魏志東夷伝」に「倭国の酒」に関する記述があり、400年ごろには「播磨国風土記」に「清酒(すみさけ)」の記事が見られ、清酒の初見とされている。また、古事記・日本書紀における「八塩折之酒(やしおりのさけ)」「醸しみ御酒」や「大隈国風土記」における「口噛みノ酒」の記述からも、いかに古くから日本に根付いていたかということに気づかされる。

 「日本三大酒どころ」といえば、灘(兵庫)・伏見(京都)・西条(広島)が挙げられるのは周知のことだが、製造量でみると、都道府県別では1位兵庫、2位京都、3位新潟、4位埼玉、5位秋田と続く。また、酒蔵の数では1位新潟、2位長野、3位兵庫、4位福島、5位福岡と続く。新酒の出来栄えを競う「全国新酒鑑評会」で金賞の受賞数では、2024年で1位兵庫、2位福島、3位山形、4位長野、5位秋田・栃木が入っている。

国税庁によると、2022年度の清酒消費量は約40万キロリットルで、ピーク時の1975年度の167万5千キロリットルから4分の1以下に減少している。ただ、2013年に同じくユネスコ無形文化遺産に 「和食」が登録されたことをきっかけに、和食に合う酒として人気が高まり、2023年度にはアメリカ・中国を中心に75カ国まで輸出先が拡大し、輸出額は約411億円と10年で4倍近くに伸びている。

 インバウンドでの滞在中に日本の食文化として日本酒の需要が高まる中で、酒蔵見学も増えてきている。海外のワイナリーツーリズムは数万円でも提供されていることと比べると、国内においてはまだ無料見学やテイスティングも数百円程度のところが多く、機会損失や購入へつながる仕掛けの弱さも課題である。しっかりと価値を伝えていけば、その消費拡大への効果が期待される。国税庁を中心に実証してきた酒蔵ツーリズムのノウハウ等も活用しながら各地が無形文化遺産登録のチャンスを活用し、日本における一つの定番企画としてより確固たるポジションが確立されることを願いたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

(観光経済新聞2025年2月3日号掲載コラム)

 
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