
昨年の訪日客は3687万人で過去最多を更新するとともに、訪日客の年間消費額が8兆円を超えて過去最高を記録し、観光業界は大いに活況を呈している。
北海道でも2月4日に札幌雪まつりが始まり、2月6日から旭川冬まつりが開催される。そのため観光業界は万端の準備を整えて、国内外からの観光客の受け入れに勤しんでいる。中華圏の旧正月「春節」が始まっているために中国人観光客の来道増加が期待されている。日本政府は中国人向けのビザ(査証)の発給要件を緩和する方針を示しており、今後も中国人客の来道増加が予想されている。
ところが北海道でもすでにオーバーツーリズムに対する弊害が生じている。札幌市内の中心部は外国人客があふれており、市民はへきえきとしている。また、ホテル料金が高騰しており、円安の恩恵を受ける外国人客とは異なり、日本人客はショックを受けている。美瑛町では北海道を代表する観光スポットの一つである「セブンスターの木」近くにあった約40本の白樺並木が伐採された。写真撮影に訪れる観光客らが周辺の農地に立ち入り、農作物に悪影響を与えるとともに車の渋滞を招いて、オーバーツーリズム批判が深刻化した。
近年日本ではオーバーツーリズム批判が声高に展開されているが、一方で評論家の大前研一氏はインバウンド推進とオーバーツーリズム対策という矛盾する課題の解決策として「アンダーツーリズム」を提唱している。それはまだ観光地として注目されていないローカルな穴場地域への旅行の推進だ。日本観光の大きな強みは至る所に素晴らしい観光資源や観光素材が存在することにある。
札幌雪まつりや旭川冬まつりほど有名ではないが、上川町では「層雲峡温泉氷瀑まつり」が1月25日に開幕している。高さ最大14メートルの氷像が色とりどりに照らされ、幻想的な世界を生み出す。3千本の丸太で骨組みを造り、石狩川の水を霧状にかけ続けて氷瀑をつくる。人が中に入れる大型氷像は12基で、外国人客に人気がある。従来は開催期間が2週間であったが今回から44日間に延長している。集客目標は7万人なのでアンダーツーリズム的であるが、観光協会を中心にしながら地元民も運営に積極的に協力している。まつり期間外の集客としては観光庁の補助金を活用して、町内の大雪ダムで結氷した湖上の氷を円形に切り取り、メリーゴーランドのように回す「アイスカルーセル」にもチャレンジし、好評を博している。
北海道では2001年から「北海道遺産」事業が展開され、現在74件が選定されている。むかわ町穂別の古生物化石群、留萌のニシン街道、霧多布湿原、アイヌ文様、利尻島の漁業遺跡群と生活文化、内浦湾沿岸の縄文文化遺跡群、増毛の歴史的建物群、野付半島と打瀬船、江差追分、ワッカ/小清水原生花園など、アンダーツーリズムに貢献できる可能性がある。
とはいえ、地域の個性を生かした観光振興にはさまざまな要因が複雑に絡むために事業推進は容易ではない。されど、あくまでも王道は「地域の民産官学の協働」であり、地域の自律性が問われることになる。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)
(2025年2月10日号掲載コラム)