
オーバーツーリズムやマナー啓発等が各所で課題になっている。これから桜シーズンを迎えることになり、年間の中でも観光客が集中する時期にも差し掛かってきて、対策を考えている地域も多いことだろう。意識の啓発や来訪者に守ってもらいたいルールの告知において一つ参考になるのが、ニュージーランドにおける「ティアキ・プロミス」だ。これは、2018年11月より開始された取り組みで、ニュージーランド政府観光局、ニュージーランド航空、観光保全省をはじめ、多数の旅行業関係の団体や企業がこのプロジェクトに参画している。
「Tiaki(ティアキ)」とは、マオリ語で「その土地や人々の面倒を見、気を配り、守る」という意味で、この言葉を軸に展開される「ティアキ・プロミス」。自分自身の行動が環境にどのようなインパクトを与えるのか、ニュージーランドの美しさを受け継いでいくために自分にできることは何なのか、ということについて主体的に考えるきっかけを与えてくれるものでもある。
具体的には三つの誓約で構成されている。(1)土地、海、自然に気を遣い、そっと足を踏み入れ、痕跡も残しません(2)ルールを守って安全を心がけ、全ての環境に思いやりの心をもって接します(3)お互いの文化に敬意を払い、心を開き、受け止める気持ちを忘れません―といったことだ。また、そのために「安全運転をする」「天候などの急な変化にも対応できるよう事前準備をする」「お互いに敬意を払う」「自然を守る」「ポイ捨てをしないで旅をする」といった行動を推奨している。
ニュージーランド航空の機内ではこの説明動画が流され、ホームページ等でも大きく告知されている。
日本でも自然や文化、信仰に基づく観光地の人気が高まってきている中で、世界遺産ゾーンや特別な場所を訪れる際に、こうした概念を積極的に告知するとともにそれを守り続けることが一つのアイデンティティ、ブランドとして確立することができるのではないかと考えている。
テーマパーク化してしまうのは本末転倒だが、意識づけに関しては入場前にしっかりと伝えて、誓約書に署名してもらう等のプロセスは方法次第で、さまざまな場所で展開できうるものではないだろうか。一部の観光地は事前予約等のプロセスも拡大している中で、予約時には確実にこれらの価値観を伝え、理解してもらい、責任ある滞在を実践してもらう流れはもっと加速していくべきである。加えて、それをしっかりと伝え見守れるような地域ガイドがコーディネートする仕組みを整えれば、自然・文化という風土自体の持続的な好循環モデルに転換していけるのではないかと考えている。
ニュージーランドのように国全体で取り組むのがベストではあるが、まずは主要なエリアにおいてこうした活動が展開・浸透されていくと、より理解ある人同士が価値観を共有しながら滞在していく理想的な形が実現していくに違いない。
(地域ブランディング研究所代表取締役)
(観光経済新聞2025年3月3日号掲載コラム)