日本のインバウンド観光立国政策は順調に進展しており、2018年はいよいよ「インバウンド3千万人」の大台を超える可能性が高まっている。その一方で世界の政治情勢は不安定化の度合いを強めている。
北朝鮮の核・ミサイル問題について国連安全保障理事会で繰り返し討議されているが解決の見通しは立っていない。
17年12月にトランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めたことによって、中東和平がもろくも崩れつつあり、軍事的衝突の危険性が高まっている。さらに、世界各地で繰り返しテロが発生しており、日本でテロが発生しても不思議ではない。
17年、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」がノーベル平和賞を受賞したが、現実には核兵器の脅威がより高まっている。テロを行う過激派組織が核兵器を入手し使用するならば、世界中に大きな衝撃が生じるだろう。
観光産業はフラジャイルな産業であり、戦争やテロ、伝染病、大きな災害などが生じるとすぐに観光客の動きが鈍化し影響を受ける。フラジャイル(fragile)は「壊れやすい」「虚弱な」「はかない」などを意味しており、観光産業はまさに「壊れやすく、虚弱な産業」という面を克服できていない。
昨年、日本のテレビ界で「フラジャイル」が大いに話題になった。それはフジテレビの医療系ドラマ「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」で、長瀬智也が冷静・沈着で優秀な岸医師役を好演し、病理医という世間一般に馴染みのない仕事が注目された。
このドラマは、草水敏・原作、恵三朗・作画によるコミックがドラマ化されたものだった。人間の身体はもろく、壊れやすいものであり、病理医が的確な診断をして患者の命を救っていく内容であった。
病理医は患者から採取した細胞や血液、体液などを病理検査したり、臓器を直接肉眼で確認したり、CTスキャンの画像解析などによって病理診断を行い、適切な治療方法について担当医に助言して、患者の命を救っていく。
ドラマでは岸病理医が患者の命に関わる診断に対して強い情熱と誇りをもって担当医に助言を行うためにしばしば担当医と激論になるという筋書きが好評だった。
観光産業が抱えるフラジャイルな病理について冷静・沈着に病理検査・診断を行い、観光産業界に対して助言を行う体制を整える必要がある。
日本のインバウンドの隆盛化は大いに慶賀すべきことであるが、その一方で日本の観光産業のさまざまな病理がすでに明らかになっている。今年こそ観光産業に対して的確な病理診断を行い、適切な治療方法を助言する岸医師のような優秀な病理医の登場が期待されている。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)