幸運にも、前号でご紹介したレストラン「noma」の姉妹店へ行く機会を得た。札幌の三ツ星レストラン「モリエール」の中道博シェフが北欧に行かれたと聞き、北の巨匠のおススメのお店を伺ったところ、「予約の取りにくい所もあるから手配しましょうか?」とニッコリ。超ラッキー! サスガ、世界中の料理界にパイプをお持ちなのだ。
その1軒が、nomaが経営する「108」。各国のマスコミで取り上げられ、世界的に注目を集める同店のシェフは、noma出身のクリスチャン・バウマン氏。昨年オープンしたばかりなのに、既にミシュランの一ツ星を獲得している。
メニューはアラカルトのみで、小さな前菜と二人前程の量のメインから選ぶスタイル。メニュー名は、食材の名称のみである。
最初に、白い皿の上に、マリーゴールドの花びらをきれいに盛付けたものが運ばれてきた。何だろう? 聞けば、コレが北欧の夏の風物詩「ザリガニ」だと言う。スタッフがかけてくれた透明な液体は、「青トマトのダシ」だそうだ。なるほど、花びらの中には青トマトで和えたザリガニの身が。
次に、ペースト状になったグリーンピースの上にキャビアが載り、エディブルフラワーで彩られた、その名も「グリーンピース」。食べてしまうのがもったいないくらい美しい。「ズッキーニ」は薄くスライスされ、整然と円形に並んでいたが、どれだけ手間が掛かるんだろう?とちょっぴり心配。「ブナシメジ」は天麩羅で、スモークした卵の黄身のソースでいただく。天つゆでも塩でもなく、新感覚。
「蒸し煮の豚」は、丸いドーナツ生地の中に入っていた。デンマークの伝統料理エイブルスキーヴァーをアレンジしたモノだ。日本のタコ焼きにインスパイアされたのか、削り節が上に載っている…と思ったら、食べてみると削ったサマートリュフだった。
メインは看板料理の「グレイズド・ポーク・ベリー」。養豚が盛んなので、豚肉料理が豊富だ。沖縄でもよく豚肉を食すが、そのほとんどが実はデンマーク産である。照りがついた豚のバラ肉は、甘辛い味付けが中華の東坡肉とも似ているが、オーブン焼きなのでややクリスピー。上に載った山椒の実が良いアクセントだ。サイドディッシュは、レッドカラントの実で赤く染まったリンゴ。ナイフを入れると、超薄切りのリンゴを幾重にも重ねたものだった。これにデザート2品で、4人で食べ切れないくらいのボリューム。お腹も一杯だったが、衝撃的な料理の連続で、頭も一杯になった。
北欧で「スモルゴス」「スモーブロー」と呼ばれるオープンサンドイッチが、日本でも流行っている。見た目がきれいでフォトジェニックなのが人気の理由。だが108の料理は美しいだけでなく、さまざまな調理技術を駆使しており、地元の食材や伝統へのリスペクトも感じられる。北欧の最先端料理は、見た目からは味の想像がつかない独創的な料理だったが、どこか温かさに満ちていた。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
ザリガニ
ザリガニ
グリーンピース
ズッキーニ
ブナシメジ
蒸し煮の豚