沖縄県中頭郡読谷村。幹線道路から脇道に入ると、玄関の大きなガジュマルの樹が出迎えてくれる。その店の名は「ミンタマ」。常宿のホテル日航アリビラから近いのでよく伺う。最初はイタリアンと聞いてお邪魔したのだが、実はしっかりした沖縄料理も提供してくれるのがうれしい。
例えば、沖縄版豚の角煮ラフテー。とろっとろの皮つき三枚肉を食べれば、きっと手間暇掛けているに違いないとスグ分かる。
沖縄で「混ぜる」という意味のチャンプルー、要は炒め物だ。ゴーヤとソーメンのどちらも捨て難く、いつも結局両方オーダーするのだが、いずれもウマイ。
スーチカー春巻は、沖縄の伝統料理、豚肉の塩漬けスーチカー入り。とろみの付いた具とパリパリの皮のコントラストが超美味。
われわれ関東の人間にはなじみの薄い、グルクンという魚の姿揚げは、身はふっくら、ヒレや骨もカリカリで、余すところなく食べられる。和名はタカサゴと言い、沖縄の県魚だそう。市場に並んでいるのを見ると赤い魚だが、海中ではきれいな青緑色なのだという。
イタリアンも本格的だ。いわゆるミートソース「サルサボロネーゼ」も本場の味。タマネギやニンジン、セロリが溶け込んだソースがパスタに絡めば、うぅ~ん、ボーノ! 近くのアリビラ海岸で獲れたイワシを、ハーブとオイルで煮込んで載せた「自家製オイルサーディンのピザ」や、沖縄を代表する海藻アーサをトッピングしたピザなど、地元食材を使ったイタリアンメニューもある。
ほかに、沖縄料理でもイタリアンでもない、店のオリジナル料理がある。筆者の大好きな「バッファロー・ウイング」もそう。メニューに「スパイシーチキン唐揚げオリジナルチリソース風味」と解説があるが、手羽先をカリカリに揚げ、特製チリソースを絡めたもの。特産品を使った「紅いもフライ」も、紅いもの沖縄県外への持ち出しが禁止されているので、東京では滅多に食べられない。
オーナーの山内晃樹氏に、なぜこのような料理のラインアップになったのか尋ねてみた。18年前店を立ち上げた当初、イタリア人シェフがいたからイタリアンでスタートしたものの、2年くらいまったく客が入らなかったため、苦肉の策として観光客を呼び寄せようと沖縄料理も提供し始めたのだそうだ。だが図らずも、それが店のオリジナリティを創出した。
「当時はまだ20代後半で、何も考えていなかった」と振り返る山内氏。今は明確なビジョンを持って経営していると話す。スタッフ全員で取り組んでいるというそのビジョンとは「笑顔のお手伝い」。居心地の良い店で口福な料理を食べれば、人は笑顔になる。
「ミンタマ」とは、目玉という意味。沖縄の方言を店名にしたいという思いと、音の響きが好きで名付けたそうだ。ビジョンも定まった今、沖縄飲食業界の新たな「目玉」として、多くの目玉から注目を浴びるようになるのは間違いない。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
ガジュマルの樹
ラフテー
アーサーとしらすのピザ
サルサボロネーゼ
スーチーカー春巻
ソーメンチャンプルー
バッファローウイング
紅いもフライ