旅に出ると、お財布のひもが緩む。なかなか行けない場所で出会うモノって、二度と得られないかもしれないと思うからだ。そこでしかできない体験や、ここでしか買えない物、食べ物もそう。今食べておかなきゃ、一生食べられないかもしれないと考えると、思わず清水の舞台から飛び降りてしまう。今回の旅でも、つい贅沢(ぜいたく)をしてしまった。
ラスベガスの中でも超ゴージャスなホテル、ベラージオ。イタリア・ロンバルディア州コモ湖畔にある高級リゾート地の名を冠した同ホテルは、コモ湖をイメージした人造湖での噴水ショーでも名高い。
その中でも、最も豪華なレストランが「ピカソ」だ。店名の通り、店内にはホンモノのピカソの絵が十数点も飾られている。その総額、なんと約100億円! しかも、ミシュランの二つ星や米国自動車協会(AAA)の5ダイヤモンドを獲得、実力も伴っているのだ。
同店はプリフィクスコースが2種類のみなのだが、季節メニューとしてトリュフのコースがあった。…と、久し振りの訪問となった今回、旅先での悪いクセが出て、ついコレをオーダーしてしまった。そもそもトリュフとは、和名を西洋松露というキノコで、キャビア、フォアグラと共に世界三大珍味の一つとされ、非常に高値で取引されるのはご承知の通り。
最初の一皿は、卵のポワレ・クリームほうれん草添え。フォンで蒸し焼きにされた卵が、バターの風味豊かなほうれん草の上に載せられ、その上からこれでもかと削ったトリュフがかけられている。元々卵とトリュフは相性が良いとされ、オムレツや、茶碗蒸しのようなロワイヤルと供されることが多いが、こちらはより濃厚であった。
続いて、アルボリオ米のクリーミー・リゾット。この米は日本と同じジャポニカ米の一種で、イタリアでリゾット用に栽培されている大粒の品種。これまたチーズの入った濃厚なリゾットに、トリュフがタップリかかっていた。
そして、バターナッツ・スクワッシュというカボチャのラビオリ。ねっとりとしたカボチャが具になった甘味のあるラビオリと、パルミジャーノ・レッジャーノの塩味がマッチ。その上にはもちろんトリュフ。
メインはプライム・フィレミニヨン。こちらもステーキの上にトリュフがテンコ盛りになっているのだが、米国農務省による格付で肉質等級の最上級「プライム」のフィレのおいしさは、トリュフにピッタリ。
いずれも、ひと口いただけば、ムチャクチャ芳しい香りが口の中に広がる。味よりも香りが重要なトリュフ、たいしておいしくもないのに、このコース400ドルをバカらしいと言う人もいるだろう。でも、鼻をつまんで匂いを感じなくすると、味覚が鈍くなるってことは、香りって重要なのだ。トリュフ入りのオムレツの方が、入ってないよりおいしいと思うけどなぁ…と感じるトリュフ好きの筆者にとっては、最高のディナーであった。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。