【竹内美樹の口福のおすそわけ 231】思いがけないおもてなし その2 竹内美樹


 前号に続いて、岐阜県の「下呂観光ホテルしょうげつ」でのお話。社員旅行だったので、夕食は皆と一緒に本館の「あぶり会席」をいただいたが、せっかくなので朝食は宿泊した「しょうげつ」の料理茶屋「水琴亭」へ。水面に浮かぶ数寄屋造りの個室に入ると、窓の向こうに見える庭が、木漏れ日で美しく輝いていた。ステキな空間もまた、おもてなしの一つだと感じる。

 席に着いて、一瞬息をのんだ。奇麗なマーブル模様のサシが入った薄切り肉が、飛騨コンロの上に置かれているではないか。朝から飛騨牛なんて、超ぜいたく! 地元名産の刺身蒟蒻(こんにゃく)と味噌焼きにすべく、仲居さんが火をつけて下さる。

 朱塗りのお盆の上には、とろっとろの生湯葉に生雲丹(うに)が載った物をはじめ、七つもの小鉢が並んでいる。そこへ次々お料理が運ばれてくる。まずは品の良いお味のジャガイモのスープ。そして出来たての出汁巻き玉子。平目のお造りも登場。プリプリの身は甘く、質の高い物だと分かる。

 続いて、水を張った器に盛られたお豆腐。上に胡瓜(きゅうり)で作った蛙(かえる)が載っていた。「蛙の目はお味噌ですので、召し上がれます」との説明が。可愛い蛙は手が込んでいて、食べてしまうのがもったいない。他に2切れ入った白い立方体は小さ目のお豆腐かと思いきや、山芋を固めた「養老豆腐」だった。話はそれるが、おろした山芋を用いる料理は、年老いた人の滋養になることから「養老」と呼ばれる。

 干物も一人ずつ網で焼いていただくのだが、取り皿には程よいあんばいに焼けたタラコが盛られていた。こうした細やかな気配りもうれしい。レア目に火が入った焼きタラコを見るとご飯が食べたくなるが、ここではご飯かおかゆか選べるようになっている。いずれも、「銀の朏(みかづき)」という地元のブランド米だ。

 その正体は、2000年に下呂市で偶然発見されたという新品種「いのちの壱」である。もともと「龍の瞳」というブランドで販売されていたが、一部の農家が結束し、新たにこの「銀の朏」をリリース。飛騨およびその周辺の標高600メートル前後の中山間地域で、減農薬、化学肥料不使用など独自に定めた基準に則って栽培された米である。

 粒の大きさはコシヒカリの約1.5倍といわれるが、確かに大きい。モチモチした弾力が楽しめるご飯、甘味が強く感じるおかゆ、シェアしたので両方いただけて口福であった。

 とろける味わいの飛騨牛を口に運びながら、これって普通の朝食と違いますよねと仲居さんに確認すると、「昨夜こちらで会席料理を召し上がらなかった分、料理長が力を入れました」と。思いがけないおもてなしに、感動した。

 燃料と人件費を使ってでも、本館からわざわざバスで送迎したり、キノコをそのまま提供せず採取させたり、どうすればお客さまに喜んでもらえるかを考え、具現化しているのだと、随所で感じた。
サスガ、日本旅館国際女将会会長の宿だ。恐れ入りました!

※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

朝食にも飛騨牛

ジャガイモのスープ

出汁巻き玉子

平目のお造り

“ゲロ下呂”蛙の載ったお豆腐

干物

銀の朏のお粥

小鉢

朝食会場の個室

送迎バス

 
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