福島県南会津郡湯野上温泉の、「渓谷の別邸 花鳥華やか風月の宿 藤龍館」を訪れた。毎分200リットルの湧出量を誇る同館では、大浴場はモチロンのこと、二つの貸し切り露天風呂や全12室の客室のお風呂まで、全て源泉掛け流し。
12室といっても、侮るなかれ。廊下などがとてもゆったりした造りで、ぜいたくな公共スペースがたくさんある。広さは何と千坪。大川渓谷に面しており、玄関やロビーの位置する1階から地下3階に下がっていく構造。そこからさらに外階段を下りると、渓谷が眼前に広がる貸し切り露天風呂だ。
温泉ざんまいの後のお楽しみは、お食事である。夕食は、オクラと青菜の辛子和えのサッパリした先付けからスタート。次の前菜は会津アスパラやタコの柔らか煮などの盛り合わせ。目の前の大川が川魚釣りのメッカとあって、大川マスの手毬寿司(てまりずし)も盛り込まれていた。
焼き霜ハモのわん物、お造りと続いた後の台の物は、福島牛と米沢牛の食べ比べ。1人前ずつ目の前の鉄板で焼けば、肉の焦げる香ばしい匂いに思わずニッコリ。3大和牛の一つとされる米沢牛が美味なのは言うまでもないが、知名度ではやや遅れを取っている福島牛も負けてはいない。
強肴(しいさかな)として米ナスの肉味噌焼きが供され、コッテリ系が続いた後、御凌(おしの)ぎの冷やそばサラダ仕立てで口中がリセットされたところに、大川の恵みアユの塩焼きが登場。見事な天然アユは、川魚が苦手な同行者もペロリと平らげてしまったほど美味。スイカのような強い香りを放ち、香魚と呼ばれるのがよく分かる。
その後、郷土料理としてそば粉の茶碗蒸しが運ばれ、会津ひとめぼれのお食事と赤だしの留椀(とめわん)が出るころには、すっかりおなかが一杯になってしまった。でも、これからお部屋のお風呂に入ればダイジョーブ。これが全室源泉掛け流しの宿のうれしいところだ。
全旅連青年部でも活躍されている、同館の星永重社長。地元では、福島県旅館ホテル生活衛生同業組合青年部で、福島のおいしい食材を宿の朝食で発信するという「ふくしま朝ごはんプロジェクト」に取り組まれている。それゆえ、ひじきや山菜などの小鉢に煮物、頭から丸ごと食べられるイワナの一夜干しの他、豚肉のお鍋などが並ぶ超ゴージャスな朝食だ。
それだけではない。夕食では、渡部農園のこだわりのひとめぼれだったが、朝食時は地元下郷町佐藤農家の甘味が強いコシヒカリを使用。わざわざお米を変えているのだ。その土地でしか味わえない「究極の朝ご飯」を目指していると聞けばうなずける。ご飯だけでもおいしいが、会津地鶏の卵をかけて食せば、その口福にお腹だけでなく心まで満たされる。
常に温かい笑顔で接して下さる女将さん、将来の旅館業界を背負って立つ星社長、かわいらしい若女将、また3人に会いに行きたい。
次は姉妹館「一宿一飯のONSENハウスしみずや」の露天風呂にも入ってみたいと思う筆者である。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
前菜
お造り
焼き霜ハモのわん物
福島牛と米沢牛の食べ比べ
米ナスの肉味噌焼き
アユの塩焼き
そば粉の茶碗蒸し
冷やそばサラダ仕立て
朝ごはん
コシヒカリと会津地鶏の卵