横浜中華街の広東料理の老舗「聘珍樓(へいちんろう)」。1884(明治17)年創業で、日本に現存する最古の中国料理店だそうだ。現在国内に6店舗、姉妹ブランドで2店舗を構えるほか、各地の百貨店で総菜やまんじゅうなどを取り扱う販売店も展開し、さらに香港に現地法人を設立、日本初となる中国料理店の逆上陸出店を遂げている。
国内全店舗の「聘珍樓」総料理長西崎英行シェフが、2010年就任以来力を注いできたのが、「薬食同源」に基づいた薬膳料理。国際中医師の講師を招いた「季節の薬膳セミナー」をスタートさせ、月替わりで「アンチエイジング薬膳コース」も提供している。
中国に古くから伝わる薬膳料理に使われる食材は、免疫力増強、抗酸化、保湿力改善、血流改善などの効果が高いことが、近年解明されているという。まさに、アンチエイジング・フードである。その最高峰ともいえるのが、同店が誇る「プレミアム壺(つぼ)蒸しスープ」。月ごとにテーマと食材が替わり、例えば3月は「気血水(きけっすい)」を満たすというテーマで、フカヒレ・スッポン・ツブ貝のスープだ。
実は先日、特別な壺蒸しスープをいただく機会を得た。メニューに「烏鶏燉排翅」とあるこのスープ、記載された材料名ごとに内容をご紹介したい。
「烏骨鶏(うこっけい)」は、皮膚や内臓、骨など全てが真っ黒な鶏で、古くは不老不死の食材とされていた。「排翅」つまりフカヒレ。言わずと知れたコラーゲンの宝庫。「鹿筋」はシカのアキレス腱(けん)。「中華八珍」に含まれるほど、希少な食材。やっぱりコラーゲンでぷるっぷるだ。「海参」は干しナマコ。海の朝鮮人参といわれるそうで、生のナマコを表す「海鼠」と字が違うのは、干すことによって薬効が変わり、朝鮮人参と同じサポニンが多くなるのでこの字があてられたようだ。
そして楊貴妃が好んで食したとされる「雪耳」こと白キクラゲと「杞子」ことクコ。いずれも美肌効果が期待できる食材だ。さらに、ユリ科のアマドコロの根茎を乾燥させた「玉竹(ぎょくちく)」と、山芋を乾燥させた「淮山(わいさん)」は、いずれも滋養強壮のために用いられる。
味の決め手となるのが、干し貝柱「干貝」と、どんこシイタケ「花菇」、そして「火腿」こと金華ハム。いずれもうま味タップリの高級食材で、上質な中華スープには欠かせない。特筆すべきは、この壺蒸しスープには調味料が一切入っていないということ。干し貝柱とどんこシイタケのうま味と、金華ハムの塩味だけで味が付いているという。
調理にも気が遠くなるほど手間暇がかかる。食材を戻すなど下ごしらえが必要な上、丸鶏を4時間蒸してスープをとり、1人前ずつの壺に食材を敷き詰めスープを入れてから、さらに4時間蒸すのだという。
絶品なのは言うまでもない。一口いただくごとに力がみなぎっていく。西崎シェフの食材へのこだわりと、おいしく食べられるよう調理に手間と時間を惜しまない、その熱意に感服した。ごちそうさまでした!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。