ウィズ・コロナの時代に突入したとはいえ、まだまだ行きたい所にすんなり行ける状況ではない。モチロン、海外への渡航もまだまだハードルが高い。…というワケで、今回は、海の向こうの「思い出の味」、第1弾をお届けしたい。
数多くの海外旅行の中で何度か、普通ならあり得ないような経験をしている。その一つが、2012年のこと。アメリカ大西洋沿岸を襲ったハリケーン「サンディ」は、10月29日夜東海岸に上陸し、ニューヨーク州、ニュージャージー州の沿岸部に甚大な被害をもたらした。東部一帯で約800万世帯・事業所が停電、沿岸部で数十万人に避難指示が出ていたまさにその時期、筆者は何と東海岸への旅に出掛けたのだ。
今思えば能天気としか言いようがない。空港に到着したら、ニューヨーク行きが全便欠航になっている中、われわれが搭乗するボストン行きだけが奇跡的に通常運航だったので、ラッキー♪なんて喜んでいたのだから。
10月30日ボストンに到着、駐機場にはわれわれが乗ってきた飛行機以外見当たらないほどガラガラ。ニュースで見たハリケーン、やっぱりひどかったのかな?と一抹の不安を覚えつつ街に出ると、台風に慣れっこの日本人からすればさほど大きな被害も見受けられず、予定通り食事や観光を楽しんだ。その際訪れた「アトランティック・フィッシュ」というレストランで食したクラムチャウダーが、今も忘れられない。
クラムチャウダーには、白と赤の2種類がある。白はニューイングランド風、もしくはボストン風と呼ばれ、赤はニューヨーク風またはマンハッタン風と呼ばれる。実は他に、透明なスープのロードアイランド風も存在するらしい。
元々、英国からやって来た清教徒たちに「ニューイングランド」と名付けられた地域で、地元の魚介類を使って作られたのが、この料理のルーツ。当初は透明なスープだったようで、それに小麦粉と牛乳で風味をつけ濃厚にしたのが、ニューイングランドの中心地の名が付くボストン風だ。
東海岸各地に伝わると、イタリア移民の多かったニューヨークでは、トマトを使った赤い色に仕立てられた。イタリア人街「リトル・イタリー」のある地名にちなんで、マンハッタン風と名付けられたという。
話を戻そう。1906年創業の同店は、最もクラシカルで正統派のクラムチャウダーを提供する店として名高い。メニューには「受賞歴を誇るニューイングランド・クラムチャウダー」と書かれ、カップとブレッド・ボウル入りがあった。筆者は前者を、同行者たちは丸型のパンをくり抜いた中にチャウダーが入った後者を選択。発祥の地、本場ボストンなら美味なハズ!という期待を上回る味に、目からウロコ。とってもクリーミーだが重た過ぎず、クラムチャウダーってこんなにおいしかった?と自問自答したほど。
その後この旅で起きた事件とは? ハリケーン直後の珍道中、次号に続く!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。