【竹内美樹の口福のおすそわけ 346】ほろ苦いチョコアイス 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 先日、お世話になった方に手土産をお持ちする機会があった。さて、何にしようか? 形の残る物だと、お気に召さなかったら迷惑だから、やっぱり消え物、つまり食べ物だ。最終的に選んだのはチョコレートメーカー「ゴディバ」のアイスクリーム。チョコはよく買うが、アイスは初めて。おいしそうだなぁとわが家の分も購入、食してみた。

 サスガチョコメーカー、バニラアイスにはカカオチップが入り、ストロベリーアイスにもチョコチップが入っている。いろいろなフレーバーがある中で、最も気になったのが「フォンダンショコラ」。フォンダンとは、「溶ける」という意味のフランス語だそうで、温かいチョコレートケーキの中から、とろりとチョコレートソースが溶け出す仕掛け。コレを冷たいアイスでどう表現するのか?

 ココアクッキー入りのミルクチョコアイスを食べ進めると、黒っぽい液体にぶち当たった。チョコレートソースだ! 実は、油分の多いチョコレートソースは凍らないから、アイスクリームの中にトロリとした「フォンダン」な状態で仕込むことが可能なのだ。ワザあり! ウマイ!

 保冷バッグの中にアイスと共に入っていたパンフレットを手に取ってみると、中から1枚別紙が滑り落ちた。紋付き袴姿の外国人が、畳の上でピシッと正座している写真に、白抜きの文字で何やら書いてある。タイトルは「礼節の国」。ゴディバ ジャパン社長ジェローム・シュシャン氏のメッセージだ。

 学生時代初来日の折、ヒッチハイクで曹洞宗大本山永平寺を目指した際、車に乗せてくれた人々の優しさや、長年続けている弓道に触れ、日本は礼節の国だと述べ、その美徳が新型コロナで損なわれようとしているのでは?と同氏は憂いている。医療従事者の家族が心ない言葉を浴びせられたり、他県から来た車に卵が投げつけられたりというニュースに胸を痛めているというのだ。

 調べてみると、今年9月、日経新聞に掲載された全面広告と分かった。ゴディバと言えば以前も「日本は、義理チョコをやめよう」という全面広告を打ち話題となった。チョコが売れてナンボの企業の発信だけに、インパクトが強かった。

 同氏はゴディバ ジャパンの社長に就任し、7年で売り上げを3倍に伸ばした凄腕の持ち主。またしてもその発信力にやられたな、と思う。

 だが、これは上っ面な意見広告ではない。心底日本を愛しているからこそ、こんなはずじゃなかったと居ても立っても居られなかったのだろう。フランス人だが、日本在住30年、弓道錬士五段という筋金入りの同氏。そのメッセージには、考えさせられる。

 最後についた「負けないで」というハッシュタグに、筆者のハートは射抜かれた。

 負けないで、コロナにも、人の心の弱さにも。思いを巡らせながら口にしたベルジアン・ダークチョコレートのアイスは、メッセージ同様深い味わいで、ちょっぴりほろ苦かった。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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