北の大地の恵みのおすそ分けを頂いた。紙袋を開けてみると、おがくずが詰まっている。何だろう? と中を探ってみると、出てきたのは百合根。北海道真狩村産のものだ。百合根というと、茶碗蒸しに入っているアレでしょ? と思う方も多いだろうが、実は堂々主役を張れる美味食材だ。
名前は百合根だが、正確には鱗茎といって、地下茎の一種。茎の周囲に生じた多数の葉が養分を蓄えて多肉となり、球形になったもので、平たく言えば球根だ。栄養満点なこの百合根、古くは滋養強壮の薬として用いられていたようだ。
塩分の排出を促し高血圧予防に有効なカリウムの含有量は、野菜の中でもトップクラスを誇り、タンパク質はジャガイモの2・4倍も含まれている。また、ビタミンCは水溶性なので、茹でると50~70%消失すると言われるが、百合根はデンプン質で守られているため、茹でても約90%も残存するという。
産地は、実に99%が北海道。そのうち約4割を占めるのが、蝦夷富士と称される羊蹄山の南山麓に位置する真狩村産である。花ユリの生産量も多い同村には、約2キロにわたって4万本の百合が咲くフラワーロードやユリ園もあり、まさに百合の村。だが、この花ユリと食用百合根とは種類が違う。ユリ科の植物の球根には、毒を含むものや、無毒でも苦みが強いものがあるのだ。現在真狩村で栽培されている食用百合根は、苦みの少ないコオニユリの交配種「白銀」だそう。
その栽培は、気が遠くなりそうなくらい時間と手間が掛かる。まずは、培養施設で母球を育て、そこからタネ球を増殖させるまでに3年。その後、春に畑に植え、秋に掘り起こすという作業を繰り返すこと3回。つまり、収穫までに6年も掛かるのだ。オマケに連作障害に弱いため、同じ畑には植えられず、一度百合根を植えた畑は、最低でも7年は植えられないという。
真狩村を一躍有名にしたオーベルジュ「マッカリーナ」を擁する、中道博シェフ率いる「ラパンフーヅグループ」。その旗艦店「モリエール」では、百合根の旬の季節になると、全てのコースに「百合根」と称した料理がつく。一枚ずつ剝がされた百合根の鱗片に、白い泡状のソースがかけられたシンプルな料理だが、茹で方に秘密があるのか、恐らくフォンと牛乳でできていると思われるソースが絶妙なのか、ムチャクチャおいしい。こんな風に調理してもらえば、百合根さんも本望だろう。
筆者のレシピも、なかなかイケると自負している。鱗片を1枚ずつにした百合根をバターで炒め、コンソメを注いでふたをし、蒸し煮にする。ある程度火が通ったら、ふたを取って水分が無くなるまで炒めれば出来上がり。茹でずに一気に仕上げるから楽チンだ。
…というワケで、頂いた百合根を調理した。サスガ品質の高い真狩村産、ホクホクで超甘い。生産者の方々の労力と6年もの歳月が生み出したこの口福に、ただただ感謝である。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。