兵庫県養父市にある「レストラン・ラ・リビエール」では、廣氏佳典総料理長自ら料理のサーブをしつつ、その説明をして下さるので、いつも調理法や食材についていろいろなお話を伺うのが楽しみの一つだ。先日訪問した折も、ひと際興味深い料理があった。
赤身の肉が3切れ載ったスープ皿が、目の前に置かれた。真空低温調理した鹿肉だという。そこに鹿のスネ肉からとったブイヨンで作った、熱々のコンソメスープが注がれる。
琥珀色に輝くそれはとても滋味深い味わいで、まさに絶品。鹿肉も軟らかくジューシーで、獣臭さは全くない。苦手だという同行者も絶賛する美味であった。
ここ但馬地域では、近年鳥獣被害が深刻なのだそうだ。害獣の肉を店で提供することで、地域資源の活用と地域活性化に少しでも貢献できればと語る同氏が、窓の外を指差した。店の裏手は辺り一面畑で、その真ん中にポツンと置かれていたのは、イノシシ用の箱ワナであった。
中にイノシシが入っているのは見たくないなと思ったが、農家の方々にとっては死活問題である。大事に育ててきた作物が一夜にして台無しになってしまったら、金銭的な被害を受けるだけでなく、耕作意欲も失われるだろう。
農林水産省によれば、野生鳥獣による農作物被害額は、近年200億円前後で推移している。被害の深刻化の原因は、人口の減少により夜間に害獣が活動しやすくなったことや、耕作放棄地の増加が害獣の餌場や隠れ場となっていること、さらにはハンターの高齢化で狩猟による捕獲圧が低下していることなどが挙げられる。
それを受け、年々法整備もなされ、現在では「鳥獣被害防止総合対策交付金」による支援も行われており、2018年度の概算要求額は110億円にのぼるそうだ。
注目すべきは、昨年度から、ジビエ利活用推進のための新たな支援メニューが拡充されたこと。食肉として利用される捕獲鳥獣はわずかに過ぎず、現状ではほとんどが埋設・焼却処分されている。その利用率向上のため、捕獲鳥獣の食肉処理加工施設の整備や商品開発、流通経路の確立などの取り組みの他、需要拡大のための普及啓発活動も支援の対象となったのである。
獣害駆除って猟友会のボランティアというイメージしかなかったが、捕獲鳥獣に「ジビエ」という付加価値が付けば報酬も発生し、ハンターの減少に歯止めがかかるかもしれない。また、害獣とは言え生き物の尊い命を無駄にせず、地域資源の活用にもなり、良いことづくめだ。
難しいことはさておき、北海道で三ツ星フレンチの蝦夷鹿のローストや、常宿のレストランの蝦夷鹿のザンギ(唐揚げ)に舌鼓を打ったり、静岡県で獲れた猪肉でラグーソースを作ったりと、ジビエ好きな筆者にとってはうれしい限り。
次回は筆者が観光特使を務めさせていただいている、高知県での取り組みについてご紹介したい。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。