旅先では、何かと忙しい。プーケットからバンコクへ飛び、その夜にはウイリアム・リード社が手掛けるグルメランキング「Asias’ 50 Best Restaurants」で1位を獲得したことのあるレストラン「ナーム」へ。なるほど、イマドキのタイキュイジーヌってこうなのねと洗練された味に舌鼓を打ち、翌日はタイ宮廷料理店のランチで、芸術作品のように美しく盛り付けられた前菜に感動。お次はCNNインターナショナルの「世界で最も美味な料理ランキング50」で1位に選出され話題になった、「マッサマン・カレー」を食し、ジャガイモがゴロゴロ入った意外にも日本的なその味に驚き、別のタイ料理店ではソフトシェルクラブのイエローカレーのおいしさを堪能。さらには専門店にフカヒレを食べに行き…と、忙しいって、食べてばっかりじゃない!と自分にツッコミを入れたくなってしまう。
香辛料を多用した料理と食べ過ぎで、いささか胃が疲れてきた最終日の朝、宿泊先の「ザ・オークラ・プレステージ・バンコク」の「山里」で和朝食をいただくことに。着物の女性が出迎えてくれると、それだけでも何だかホッとする。
スタイリッシュなデザインの店内には、テーブル席の他、鉄板焼と寿司のカウンターがあり、寿司に使う鮮魚は何と築地から仕入れているのだと、長谷部昌也副総支配人から伺った。
朝食のセットメニューは、鮭か鯖、白飯かお粥か炊き込みご飯から選べる。筆者は鯖とお粥をチョイス。お盆に載せて運ばれて来たのは、カボチャや飛竜頭(ひりょうず)などの炊き合わせ、温泉玉子、焼き蒲鉾に山葵漬けと酢蓮が添えられた焼き鯖、お粥、ご飯のお供のひじきの煮物と香の物、お味噌汁という充実した内容。
焼き立て熱々の鯖は脂が乗っており、皮はパリッと中はジューシー。あぁ、日本人に生まれて良かったと思う。前日、朝食ブッフェでいただいた、目の前で調理してくれるオムレツもおいしかったけど、お出汁で食す温泉玉子も甲乙つけ難い。飛竜頭は、噛んだ瞬間口の中にじゅわっと出汁が広がり、超美味。
特筆すべきは、お粥だ。うれしいことに、べっこう餡が添えられている。大きな丼からお茶碗に取り分けられるようになっているから、一気に餡をかけずに済むので、お粥の楽しみ方も増すというもの。
まずは、白いお粥をひと口。お米自体の旨味が、舌と心に染み渡る。今度はべっこう餡を少々かけて。とろみのついた甘辛い餡とお粥のハーモニー、文句なしにウマイ。
二膳目は、焼き鯖をパクリ、白粥をパクリ。これぞ、日本人特有の食文化「口中調味」の醍醐味だ。ご飯とおかずを口の中で咀嚼しながら、新たな味を生む口中調味で、鯖の塩味とお粥の甘味がより複雑な味わいを醸し出す。
海外に居ながら、完成度の高い和朝食をいただける口福。それを提供する調理場では、きっとさまざまなご苦労があるだろう。萩原繁シェフ、ご馳走様でした!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。