
ウォーターツーリズムで新たな需要開拓
群馬県最北端に位置するみなかみ町。県内最大の18の温泉地があり、アウトドア・アクティビティの聖地といわれる。四季を通じて楽しめ、観光客を飽きさせることはない。鬼頭春二町長にみなかみ観光の現状と課題を聞いた。聞き手は論説委員の内井高弘。(町長室で)
――みなかみ町政における観光の位置付けは高いですか。
「観光と農業で成り立っている町であり、極めて重要な産業だ。私自身は観光との接点があまりなく、観光といえば温泉に入って、おいしい料理を食べるというごく一般的なイメージしかない(笑い)。多くの人に足を運んでいただき、お金を落としてもらうことは町にとっても大きなメリットであり、観光事業者、町全体が元気になる。観光振興には今後も力を入れていく」
――みなかみの観光魅力をどう捉えていますか。
「首都圏からのアクセスが良く、東京から上越新幹線で約1時間、高速道を使えば1時間半ほどで来れる。『みなかみ18湯』という個性豊かな大小18の温泉があり、日帰りも含め、年間400万人ほどの観光客が訪れている」
「ユネスコエコパークとして認められた大自然を生かしたアウトドアアクティビティはメニューが充実しており、子どもから大人まで幅広く楽しめる。これら観光を取り巻く形で農産物の販売や地産地消、観光農園におけるフルーツ狩りなどを通じて農業分野にも広く波及している」
――温泉と自然の豊かさは県内有数の規模だと思いますが、課題といえば何でしょう。
「観光資源が広く点在しており、これをつなぐ2次交通の整備が遅れていること。採算性をどう確保するかなど問題も多いが、各分野の関係者と連携しながら対策を検討していく。また、地の利が良すぎてか、日帰り客が多く宿泊に結び付かないのが実情だ。滞在型観光をどう構築していくのかも課題だ」
――観光客数に変化はありますか。
「ここ5年間ぐらいは宿泊が110万人台、日帰りは260万人台で推移していたが、コロナの影響で2020年度は宿泊で46万人、日帰りは141万人となっている」
――コロナのダメージは大きいようですが、観光に関する支援策は。
「20年夏に、全町民に対して町内で利用できる1万円の『臨時特別商品券』、同年12月からは5千円で8千円分利用できる『エールみなかみ商品券』を販売した。さらに、21年7月には2千円で1万円分、飲食店や宿泊施設で利用できる『ふるさと応援チケット』も販売し、町民の生活支援や地域経済の活性化を図った」
「感染症の再拡大で県の『愛郷ぐんまプロジェクト』が中止となり、われわれの施策にも影響が出ているが、再開に備え、いろいろな手を検討していく」
――コロナ禍はインバウンドにも大きな影響を与えています。
「台湾やタイを中心にコロナ禍前は3万人ほどの外国人が来ており、8万人に増やそうとの計画もあったが、ゼロベースになってしまった。しかし、収束すればまた外国人は来てくれる。今は我慢の時だ」
――コロナ禍は働き方にも及び、観光面ではワーケーションに注目が集まっています。誘致に取り組む観光地も少なくありませんが、町の現状は。
「遊休施設となった旧月夜野幼稚園や古民家の改修などに取り組み、ふるさとワーケーション・テレワーク拠点を整備した。今後は都心企業の地域進出や体験研修を促す施策の検討、さらなる受け入れ増を目指した施設の拡大、および支援サービスの充実化を図る」
「現在、テレワークセンターMINAKAMI、さなざわのテラスなど、町内には五つの施設がある。ワーケーションに対応する旅館・ホテルはまだ見当たらないが、何が必要なのか、町の方でデータを収集し、フィードバックできればと思う」
――いま、観光予算はどのくらいですか。
「21年度の当初予算は約12億2千万円だが、コロナ対策の補正を含めると14億5千万円となる」
――ウィズ・アフターコロナの観光振興をどう考えていますか。
「地域資源を活用したニューツーリズムを推進していく。その一つが『ウォーターツーリズム』の取り組み」
「町は一晩に雪が1メートルも積もる時があるが、この雪はゆっくりと時間をかけて地中に染み込み、温泉となり、首都圏3千万人を支える命の水となる。まさに地域の宝物だ。その水をルーツとした特別な着地型体験プログラムを販売する観光庁の補助事業(既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業)の実証実験が1月いっぱい行われた」
「プログラムでは、町が誇る谷川連峰の山麓をプロのガイドと共にスノーシューを履いてトレッキングするツアーや、ユネスコエコパークに象徴される町の森の木の葉を蒸留して作るアロマ体験、フィンランド式サウナに入った後に雪の中に飛び込んで体を整えるプログラム、さらにオリジナルのクラフトビールを飲んだりした。水のルーツを知るというツアーが実施され、好評だった」
「今後はこれらをブラッシュアップし、みなかみの新たな楽しみ方として提案していく」
――先ごろ、町と群馬銀行、東大、オープンハウスが地域活性化に関する包括連携協定を結びました。どんな内容でしょう。
「中山間地域における地域社会の発展と地域経済の活性化、および町民サービスの向上に資することを目的に、(1)魅力ある観光地づくりおよび誘致に関すること(2)サスティナブルなまちづくりの推進に関すること―など七つの観点から継続的に連携したまちづくりに取り組んでいく」
――町の発展には観光事業者の協力が不可欠だと思います。期待の声をお聞かせ下さい。
「コロナ禍で厳しい環境下にあるが、何より防止対策に万全を期していただきたい。町も観光振興に引き続き取り組んでいく。率直な意見交換を重ね、皆さんと共にお客さまを迎えたいと思う」
きとう・はるじ 1971年4月月夜野町役場入庁。2007年4月みなかみ町役場総務課長。副町長を経て、18年10月町長就任。みなかみ町出身、70歳。