エコ・小委員会では10年以上継続して旅館の利用客1人当たりのエネルギー利用状況を調査しています。エネルギーは電気、A重油、灯油、LPG、都市ガスとさまざまで、比較するにはkcalかkwhに換算する方法もありますが、利用客1人当たりのCO2排出量に換算すると宿泊業の脱炭素化の指標になります。
その結果は下に示すグラフで、少ないところは20キログラム―CO2/人・日以下から上は40キログラム―CO2/人・日以上と振れ幅が大きく、中央値は35キログラム―CO2/人・日になっています。
ちなみに家庭の1人当たりの排出量はガソリンを除いて3・5キログラム―CO2/人・日程度なのでその約10倍で旅館はエネルギーを使いすぎています。
旅館はコロナ前には水道代を入れて1人当たり平均1350円程度の水光熱費が掛かっていましたが、エネルギー価格の高騰などで今では2千円を超えていると思います。エネルギー使用量が多い原因を三つにまとめると、原因(1)設備系統の複雑化と老朽化:旅館は増改築が多く、そのたびに設備系統が複雑になり、高度成長期の建物も多く老朽化が進み、無駄が多くなっている。
原因(2)面積効率が悪い:バブル前は和室10帖5人定員が標準客室で、1室当たりの延べ面積は150平方メートル、1人当たり30平方メートルが基準でしたが、現状は1室平均2・5人になり無駄に大きい浴室や宴会場を抱えています。同時にボイラーなどの熱源も利用人員が減った分過大になっています。
原因(3)管理不足:水光熱量がどこでどれだけ使われているのか把握されずに使用量に無駄がある。また人手不足で専門知識を持った人が不在で管理ができていません。脱炭素にはCO2を排出しないエネルギーに転換すると同時に小さなエネルギーで運用することが求められます。
宿泊施設は15キログラム~20キログラム―CO2/人・日という小さなエネルギーで運用することで経費が削減された上に脱炭素でスマートな旅館という社会的な評価も得られます。月2回のコラムで実務経験豊富なエコ・小委員が分担して空調、給湯、温泉、食、建物について分かりやすく役立つ情報を発信したいと思います。
「エコ・小」とはホテル・旅館で快適性を損なうことなく小さなエネルギーで運用し、生態系に掛かる負荷を減らすことを目指しています。それが単なる省エネとの違いです。
(エコ・小委員会委員長 佐々山建築設計会長・佐々山茂)