【脱炭素でスマートな旅館 22】気候変動対策の主役は次の世代 国際観光施設協会 エコ小委員会


 近頃1980年代の生まれでバブルを知らない30歳後半世代の話を聞く機会があります。バブル後の30年間は私が独り立ちして実務を行った時期で、当時は世の中がどう変化するか分からない中、無我夢中で仕事に取り組んでいたのを思い出します。また、この30年間は阪神淡路大震災、9・11同時テロ、東日本大震災と衝撃的な出来事が多く、地球環境問題は先送りされました。今から30年後の2050年代は日本も脱炭素社会になっているはずです。

 1980年代の世代がこれからの30年を担っていくのですが、われわれ高度成長期の幻影を少なからず持つ世代と彼らは明らかに考え方が違います。「人新世の資本論」の斎藤幸平氏は1987年生まれで、気候変動の真の原因は資本主義と断じています。彼は思想家でありSDGsもアリバイ作りのようなものと耳の痛いことを言いますが理論的です。

 私の知る実務家の1人は30代で宿泊産業に足を踏み入れ、調理の経験がなく、食事の提供を諦め、自炊キッチンを整備し、周辺の食堂にお客さんを回すことにしました。今までの旅館は泊+食でしたが、彼は泊+体験からスタートしました。冬はスノーシューでのガイド付きのツアーで、グリーンシーズンはマウンテンバイクでのツアーと、若い人たちの需要を掘り起こしています。

 「自然に還る」をテーマにサスティナブルな運営と地域づくりを宿の方針として掲げ、利用客1人当たりCO2排出量を8キログラムと平均の2割ほどに抑え、周辺の宿泊施設が昭和の影を引きずる中で若い人から認められています。

 もう1人の経営者は運営と経営(資本)の分離が増える中で、地元資本の宿泊産業が地域に与える影響を考え、運営と経営の一体化にこだわりを持ち、周辺の空き家対策のアセットマネジメントの会社をつくり、3年5年の短期でなく20年30年先を見て地域の中心になる投資を行っています。

 2人とも1985年ごろの生まれで私の息子とほぼ同年齢ですが、現代社会の問題点を乗り越える理念を持つだけでなく、経営に結び付けて適正な価格と稼働を維持しているのです。

 戦後の高度成長期からの60年で指数関数的に化石燃料の消費を拡大した結果の世の中を見て、今は社会の仕組みを変える時期に来ていることを肌で感じている世代だと思います。短期で見れば脱炭素はコストが掛かると二の足を踏むのは私を含むバブルを知る世代です。引用になりますが3・5%の人々が非暴力的な方法で立ち上がると、社会が大きく変わるといいます。脱炭素に関して彼らの世代に期待しないではいられません。

 (国際観光施設協会理事、エコ・小委員長 JIA登録建築家 佐々山建築設計 佐々山茂)
      

 
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