「食」は宿泊施設の中で唯一、製造工程がある部門で、温浴施設と並んでエネルギー消費量が多く、人手も掛かり生産性向上が求めらます。
高度成長期の旅館は団体客向けに造られ、多人数の料理を同時に提供するために、広い配膳スペースが必要で、事前に調理したお造りなどは冷蔵庫へ、天ぷらなどは温蔵庫にいったん保管し、時間になると宴会場に運んでいました。下膳された食器は食器洗浄室に集められ、作業が深夜に及ぶこともあり3K職場になっていました。製造業でいうところの大量生産方式で、その当時としてはよく考えられた仕組みです。
個人客が増加する中で宴会場からビュッフェへ、部屋出しからレストランへと表の部分は改修されても、バックスペースの調理場、配膳室、食器洗浄周りの改修は営業に支障が出るほか、コストと時間も掛かるので後回しになり根本的な問題が先送りされています。仕入れ↓調理↓料理提供↓下膳↓食器洗浄とワンストップで中間作業をなくせば運搬作業が減り、生産性が上がり消費エネルギーも減らせます。
個人客向けに多品種少量生産方式に変えるには関係者の協力と意思統一が必要でハードルが高いようです。仕組みを変えるには、(1)調理場とホールを近接させるか、オープンキッチンにすると盛り付けスペースも小さく製品冷蔵庫も不要になる(2)電磁調理器、多機能調理器を導入してハイブリッドなコンパクトキッチンとすることで作業効率が上がり使用エネルギーは減る(3)調理とホールの作業をマルチタスクにして料理提供をスムーズにする(4)下膳した食器をすぐに高性能食器洗浄機に入れ、洗い終わりを調理場、ビュッフェ台に戻し食器収納作業をなくす。番重洗いもなくす(5)食事時間に調理するとお客さまの反応が分かり食品ロス削減につながる。
宴会は多くの人とお酒を飲みかわすことを楽しんでいましたが、今は食事そのものを楽しむようになっています。中抜け勤務を見直し、調理とホールの全員でお客さまが食事を楽しめる仕組みにすると、提供側の動きもスムーズになり、エネルギー消費量も減らせます。
先日宿泊したリゾートホテルは連泊も多いのか、客室数のわりには夕食も朝食も混みあうことなく、ゆったりした時が流れていました。ホールからオーダーが伝えられるとオープンキッチンで調理が始まります。洋食ということもあるのですが、大変スムーズな流れで食事が進み、お客さまとの会話もはずんでいました。運搬や片付けの作業に追われ、お客さまと会話する時間もないのとは大きな違いです。
食のカイゼンはそれぞれの施設が持つ多様性ある食文化を育てることで、技術者が表に出る幕ではないのです。経営者と調理人が意思統一し、お客さまの満足度を上げ、脱炭素に向かってほしいと思います。
(国際観光施設協会理事 エコ・小委員長、JIA登録建築家、佐々山建築設計 佐々山茂)