青森の旅館でフロント前のロビーが寒いと問題になっていました。床暖房が故障しているのが一番の原因ですが、よくよく調べてみると、風除室外側の自動ドアと内側の自動ドアが同時に開くので、出入りするたびに外気がたくさん入るのです。ドアから1.5メートル手前で感知するので4メートルほどある風除室でも両側が同時に開き、いくら暖房しても暖まらないのです。片側をタッチセンサーにすればよいのですが、とりあえず1メートル以下で感知するようにセンサーの角度を調節して同時に開かない設定にし、外気負荷を減らして暖房負荷を押さえました。
床暖房を直す工事は大変なので別の暖房方式を考えました。石油ファンヒーターを置けば安易に解決しますが、せっかく地域性を大切にしている旅館の玄関には似合いません。薪(まき)が敷地内から調達できるので、以前から薪暖炉か薪ストーブが良いと皆さん思っていましたが、雪が多いので煙突の良い場所が見つかりません。
薪ストーブの設置場所は、風除室横が一番なので、設置業者と煙突の位置を検討して良いルートが見つかったので話が進みました。ドイツを含めた北欧はバイオマスエネルギーの利用が進み、暖炉やストーブの技術が進化しています。今回は環境先進国のデンマークの薪ストーブ会社の製品を選び、安全でメンテナンスしやすくデザインが気に入った製品に決めました。
煙突工事に約1日掛かり、薪ストーブを設置して、周りのガードを取り付け、2日間で工事は終了です。フロントの女性2人が最前列で取り扱い方法の説明を受け、その女性社員が火入れをしました。火入れしてしばらくすると炎が立ち上がりほんのり温まります。空気量を調節するレバーを上げ下げすると炎の大きさが目に見えて変化し、後は自動制御で完全燃焼するので出る灰はごく少量です。円筒型で3面に耐火ガラスが入っているので、立ち上がる炎が周りから良く見え、赤々と燃え上がる炎に皆さん心を奪われていました。
この旅館では浴槽の循環ろ過を止めて、掛け流しとし、山からの湧水で冷房を行い、食事処では窯でご飯を炊いています。系統電源や化石燃料を使えば手間いらずですが、あえて小さなエネルギーを使っています。化石燃料を使い続けることに持続性が無いことが分かり、バイオマス、太陽熱、水力、風力の自然エネルギーの利用を小さなことからでも始めたいです。
人類は近年までこれらの無限な自然エネルギーを使って生活してきたことを思えば、これらの自然の恵みである地域エネルギーを見直して使うことは新しい価値創造になり、旅館の価値が高まると感じました。
(国際観光施設協会理事 エコ・小委員長、JIA登録建築家、佐々山建築設計 佐々山茂)
玄関前に設置した薪ストーブ
(観光経済新聞11月25日掲載コラム)