【脱炭素でスマートな旅館 40】ライフサイクル 建物寿命を延ばしてLCCO2を減らす 国際観光施設協会 エコ小委員会


 先日、関西の旅館で2年がかりの改修工事が終わり、工事関係者の慰労会がありました。地元の建設会社の社長さんをはじめ、設備工事会社、電気工事会社、大工、建具屋、家具屋、塗装屋の皆さん、顔見知りのメンバーが集まり、外様は東京から参加した私だけでした。

 地域振興に力を入れているオーナーらしく、お金を地域で回す工事でしたが、それだけでなく、地元産の良質の木材やそれを見分けられる腕の良い棟梁がいて、地域らしい建物になるとともにCO2排出量削減に貢献しています。

 設計者としてのあいさつのために今までの経過を振り返ってみると、23年前の2001年に初めて訪問しています。当時はバブル崩壊後で老舗旅館の破綻が続いている時期でしたが、この旅館はバブル期に大きな投資をせずに昭和46年と48年竣工の鉄筋コンクリートの建物で営業していました。社長は30代後半の専務で、私も50過ぎと若かったです。

 建物が敷地いっぱいに建っていて、平面的に増築できないので5階に浴室を上増しました。それから今までに大小6回ほどの改修工事を行っています。江戸時代から続いている旅館の継続性を考えて2010年に1階の食事処の改修に合わせて耐震診断をし、耐震補強を行いました。5千平方メートルに満たない施設で、将来を見据えての決断でしたが、ふたを開けてみるとコンクリート柱の根元に大きなジャンカが見つかり耐震補強をして良かったのです。

 その後も改修工事をする都度、自費で耐震補強を行いましたが、内装改修に合わせて行うので思いのほか小額で済み、今回の4回目で全ての建物の耐震補強が完了しました。23年間は長いようですがこの旅館の歴史で見ると一瞬の出来事です。慰労会で隣に座った若女将さんはしみじみと23年間を振り返り、最近仕事を手伝っている23歳になる息子さんの成長を思っていました。

 私は内装の改修をするごとに電気、機械設備の改修も同時に行い、今回は熱源整備も行いました。設備図面の整備も終わり、耐震性も担保され、コンクリートの中性化が進んでいないことも確認しています。人間でいえば内臓もしっかりしていて、骨粗しょう症にもなっていない健康体なのです。

 立場上、建物診断をする機会が多いのですが、表面的にはきれいでも設備や構造の図面がなく、耐震診断もされず設備改修も後回しにされている施設が見受けられます。建物はきちんと維持管理することで資産価値が高まり、次の世代に安心して渡すことで持続可能になります。

 運用面でのCO2排出量削減と同時に、建物の建設と解体時のCO2排出量を減らすことも必要です。最近の建築費の高騰を考えると、建物の健康寿命を伸ばすことにお金を掛けることは結果的に経済的になります。慰労会で「耐震改修済の証」を額に入れて社長に渡しましたが大変喜んでいただけました。

(国際観光施設協会理事 エコ・小委員長、JIA登録建築家、佐々山建築設計 佐々山茂)


(観光経済新聞12月9日号掲載コラム)

 
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