全旅連「安心・安全なお宿のお風呂手入れの手引き」から
不特定多数の人が利用する旅館・ホテルだけに、館内の衛生管理は日々徹底したい。ここでは全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)が今年3月に発行した「安心・安全なお宿のお風呂手入れの手引き」の内容の一部と、館内の衛生管理に役立つ商品群を紹介する。手引きは全旅連の公式ホームページで公開されている。
旅館・ホテルにおける浴場管理のあり方
新型コロナウイルス感染症が収束しつつあり、国内需要、インバウンド需要ともに旅行者が増えている状況の中、適正な衛生管理を行い利用者に対してより一層の安全なサービスの提供が必要と考えられます。
令和5年2月27日に厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課より各都道府県および保健所設置市、特別区の生活衛生課あてに事務連絡が通達されています。
通達内容は「旅館業における入浴施設のレジオネラの防止対策およびコンプライアンスの順守の周知徹底について」であり、改めてレジオネラ防止対策を認識することが求められています。
旅館業法にて旅館業の営業者に対し衛生に必要な措置を講じることが定められており、衛生措置の基準は各都道府県の条例で定められています。
かねてより、施設運営に際し、衛生管理には十分な注意を払っておられるかと存じますが、厚生労働省より通達されている【公衆浴場における衛生等管理要領等について】が令和に入って改正されました。
衛生等管理要領等の改正に基づき条例が改正されている場合やレジオネラ症防止条例などが定められている場合もあります。
レジオネラ属菌が原因となるレジオネラ症は感染症法上の4類感染症に分類されており、感染者の発生は施設管理上の問題とされお客さまに賠償責任が生じる可能性があるだけでなく、社会的信用の失墜や営業上大きな損失を招く可能性があるため、条例で制定されていない場合も利用者の安全保護、施設側の運営面のリスクを減らすためにも適切な衛生管理を行うことが重要とされています。
レジオネラ対策の衛生管理や人手不足による弊害など現状の確認をして、今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫であるという過信をせずに利用者保護のため、浴場の衛生管理を改めて、また新たに見直しましょう。
レジオネラ属菌を知ろう
レジオネラ属菌は土の中や河川、湖沼などに生息する自然細菌です。
対策として、塩素消毒が上げられますが、それだけでは十分なレジオネラ症の防止対策とはならずレジオネラ属菌が繁殖する可能性があります。
管理の要点を把握し、レジオネラ属菌が繁殖しづらい環境を維持しましょう。
浴槽へは入浴者のあかや皮脂などの有機物が持ち込まれ、これらを栄養源として繁殖する微生物が侵入すると、ろ過機のろ過材や内部の壁面、浴槽や配管の内壁などに定着して増殖し、バイオフィルム(生物膜)を形成します。
以下、生物膜は本文中についてバイオフィルムと呼称します。
入浴による有機物の持ち込みを減らすためにも、入浴者に体を洗ってから、または掛け湯をしてからお風呂に入るなどの注意喚起も有効と考えられます。
また、露天風呂は外気と接しているため、内風呂に比べレジオネラ属菌による汚染のリスクが高いため、清掃を含め内湯よりも厳しく管理する必要があります。
レジオネラ属菌の防止対策の要点
前述の繁殖のサイクルに記載した通りバイオフィルムの抑制・除去がレジオネラ症の防止対策として有効かつ必要です。
レジオネラ属菌自体は自然細菌のため、どこから持ち込まれるか予測ができず持ち込みを防ぐことは困難です。
持ち込まれてしまった場合にバイオフィルムや細菌などに定着して繁殖しないように浴槽の環境を維持する必要があります。
浴槽に持ち込まれた段階では定着していない状態で水中を漂っている状態であり、浮遊性のレジオネラ属菌と呼ばれることもあります。
浮遊性のレジオネラ属菌に対しては浴槽水中の遊離残留塩素濃度を適正に保つことで対処が可能です。
遊離残留塩素濃度を保つことは浮遊性のレジオネラ属菌の対処とともに入浴者のあかや皮脂などの有機物への対処となり、バイオフィルムの抑制にもつながります。
遊離残留塩素濃度の指導上の数値は0・4ミリグラム/リットル程度から最大1ミリグラム/リットルです。
入浴者の人数やピーク時間帯などは特に過不足が生じやすいため注意が必要です。
だからといってあまり濃度を濃くしてしまうと浴槽水や浴室内が塩素臭くなる点や、入浴者への悪影響が懸念されるため、適正な維持を目指しましょう。
遊離残留塩素が低い、または入っていない状況でレジオネラ属菌が持ち込まれると、消毒効果がない状態で存在し、バイオフィルムに定着して繁殖することとなります。
レジオネラ属菌の繁殖を防ぐためにもバイオフィルムの対策をする必要があります。
バイオフィルムは塩素の濃度を保つことや週に1回程度、浴槽の清掃換水前に高濃度の塩素で循環消毒を行うことで抑制につながると考えられます。
また、バイオフィルムが生成されてしまった場合には除去対応が必要となります。
除去の方法は物理的清掃と化学的清掃に分けられます。
物理的清掃とは掃く、拭く、吸う、磨く、こする、削る、流す、取るなどのことを言います。
化学的清掃とは化学薬品の力で配管内の生物膜を除去することです。
バイオフィルムは必ずしも循環系だけに発生するわけではなく、温泉や井水を利用する場合や貯湯槽などの水槽内や供給配管でも繁殖する可能性があります。
衛生管理を怠ると温泉槽や貯湯槽内でレジオネラ属菌が繁殖することもあります。
毎日、浴槽を清掃・換水し、浴槽水を循環させない浴槽ではバイオフィルムは形成されにくいと考えられていますが、清掃が不十分な場合はバイオフィルムが形成される恐れがあることをしっかりと認識してください。
掛け流しだから大丈夫という認識を改め浴槽の清掃に注意を払いましょう。
浴槽設備、特に浴槽においてのレジオネラ対策は有機物の適正な処理を行い繁殖しづらい環境を維持することが中心になると考えられます。