新型コロナウイルス感染症の流行で、宿泊産業は大きな影響を受け、休業を余儀なくされる施設も相次いでいる。休業補償が十分に整備されないなか、草の根で宿泊業をサポートする取り組もみられるが、先の見えない状況が続いている。
こうした社会状況において未来を語ることは難しいが、変化の萌芽も見られている。今回の政府・自治体の自粛要請により、近年「働き方改革」で注目されていた「在宅勤務」が強く推奨されるようになった。緊急事態宣言前には温泉地に滞在しながら、テレワーク(リモートワーク)ができるプランが相次いで登場した。「リモート(Remote)」という言葉は、「遠隔」を意味しており、必ずしも自宅とは限らない。社会状況が落ち着き、自粛要請が解除されたあと、人々の仕事のスタイル、余暇の過ごし方の中に、リゾート地・温泉地の宿泊施設に滞在しながら仕事をするスタイルが広がる可能性もあろう。そもそもリゾート地や温泉地のような滞在を目的とした観光地は、「有名な観光資源があるよりも、レクリエーションの機会や豊かな自然環境に恵まれていることに加え、日常生活を支える都市的機能も備わった場所」であり、滞在が長期になっても生活に支障がないことが求められる。
それでは滞在型の宿泊施設は、何が必要とされるのだろうか。滞在を重視する宿泊施設を調べると、①施設内の魅力(ハードとソフト)、②宿泊施設外の魅力(地域と広域)に分けて仕組みが存在していた。ここでは、①を中心に考えてみよう。滞在者が滞在生活の大半を過ごすのは、「宿泊施設内」である。宿泊施設内の空間を分類すると、ロビーなどの「共有空間」、客室などの「個室空間」、キッチンなどの「基本生活空間」、エステなどの「付帯的空間」に大別できる。滞在が長期化すれば「個室空間」の充実は重要であるといえるが、個室のキャパシティを変更することは容易ではなく、他の空間を充実させるなど、多様な視点を持ち、限られた施設の空間を生かすことが必要であろう。また、滞在型宿泊施設の多くは、一定期間の滞在に適した「快適な暮らしの仕組み」がつくられている。良質な睡眠を得られる寝具、荷物の収納スペースなどに加え、リモートワークでいえば、on・offを分けられる「業務ができるデスクと椅子」、「ICT環境の充実」などであろう。
一方で、宿泊施設で日常に近い快適性を提供することは飽きも生じさせる。そのため、施設では自宅とは異なる「魅力」を形成することを心掛けていた。特に施設面の限界を補い、顧客の要望に応え、適度な非日常性を作り出すために、宿泊施設の個性、ポリシーに応じたソフトの活用がみられた。例えば、滞在型で問題になるのが「食事」である。滞在型では顧客の好みにより選択可能なバイキングや泊食分離が多い一方で、数日間滞在するからこそ可能で自宅では難しい養生食、ファスティング、マクロビなど、健康を意識し、滞在により健康を得られるという付加価値を生み出している施設もみられた。また、同様の目的を持つ人々との人的な交流も、単調になりがちな生活に彩りを与えることにつながっていた。
滞在目的をハレの日の楽しみにするだけではなく、施設によっては日常の延長にある「リモートワーク」×「健康(デトックス、養生等)」などを新たなスタイルとして提供することで、滞在目的の多様化を推進していくことにもつながろう。
しかし、リモートワーク等により新たな滞在の可能性が広がる一方、新型コロナウイルスの終息までに宿泊施設をどう持続させるのかが直近の課題である。いまは未来を見据えた支援が早急に求められているといえよう。
内田准教授