【観光学へのナビゲーター 31】大阪市北区中崎町における観光地化の功罪 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会・追手門学院大学地域創造学部講師 安本宗春


安本講師

 地域の日常と観光客の非日常との交錯する観光地は、地域の人たちと観光客と関わることとなる。こうした観光地の活性化は、「オーバーツーリズム」といった負の側面をもたらすことがある。例えば、大阪市北区中崎町は、戦火を逃れ昔ながらの長屋や商店等の町並みを求めて観光客が訪れている。観光客の増加に伴い、地域の空き家や店舗に集客を目的とする飲食店、土産物店、民泊等が入るようになった。つまり、中崎町の日常である長屋や商店等の暮らしが息づく、昔ながらの町並みが「観光地化」したのである。2019年度に筆者が担当した2年ゼミでは、観光地化の実態調査を目的として、学生たちと中崎町のフィールドワークを実施した。以下では、ゼミ生の小林史門君が、外部者の視点から「中崎町における地域づくりと観光との共存の難しさ」として3つの特徴をあげている。

1.マナー啓発ポスターの掲示

 ポスターは、古くから中崎町に住んでいて多くの人が通行する場所に貼られており、観光客が増加したことを迷惑がる人たちがいることをうかがわせる(写真1、写真2)。ポスターは、中崎町自治会が作成し町内に配布していた。

写真1 マナー啓発ポスター①(2019年11月23日 小林史門撮影)

写真2 マナー啓発ポスター②(2019年11月23日 小林史門撮影)

 

2.地元と観光客の双方が利用する駄菓子屋

 地元の高齢者が営業する老舗駄菓子屋の驚くべきことは客層の幅の広さである。近隣に住む小学生から、若者や小さな子どもを連れたファミリーや外国人観光客など幅広い層が利用していた(写真3)。店頭には、中崎町の廃校になった小学校から机と椅子を並べ、子どもたちの憩いの場にしようとしている。

写真3 40年以上続ける駄菓子屋(2019年11月23日 小林史門撮影

 

3.地域の二極化

 古くから住む人たちと、新たに出店した人たちとの交流はほとんどない。自治会は、古くから住む人たちがつくる昔からの組織で、新たな出店者は各々つながりを持たずに活動している。このヒアリングを受けてくれた地域の人は、中崎町に20年間在住しているが「観光地化」に対する不満はないと話していた。それは幼少期から、観光客が行き交う光景を見て育ったからである。

 以上のように学生は、地域の日常の「観光地化」に対する難しさを感じたことをレポートにまとめていた。中崎町は、「観光地化」に向けた積極的な取り組みは見受けられなかった。これは、観光地のテーマパーク化と異なり、地域の日常を感じさせる観光地化の方策といえる。その一方で、生活環境の変化に不満を抱く人もいるようである。今後は、古くから住まう人、出店などで新しく町に入ってくる人、観光客といった、不特定多数の人々との良好な関係性構築のあり方の模索に向け、その意識を地域の中で共有していくことが求められよう。

 
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